建築基準法 – 役所調査マニュアル[実践編]

緩和措置(建蔽率・容積率)

監修者

宅地建物取引士・公取協認定不動産広告管理者
野村 道太郎

大手不動産会社、広告代理店を経て現在は『不動産会社のミカタ』 『役所調査のミカタ』の編集長を兼務。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

監修者

宅地建物取引士
公取協認定不動産広告管理者

野村 道太郎(プロフィール)

ここまでに様々な制限について解説をしてきました。しかし、建築基準法には規制するものばかりでなく、制限を緩和するルールも存在しています。様々なものがありますが、見る機会の多いのは建蔽率・容積率を緩和するものでしょう。例えば「角地だったら建蔽率を10%緩和する」といったように、要件を満たせば地域ごとに定められた制限を緩めることができます。

ちなみに、役所調査で緩和について調べる場合、主に2パターンの視点が考えられます。

  • 既存建物の遵法性を確認す
  • 建てたい建物が建築可能か確認する

仲介の立場ですと、よく調査するのは①です。指定建蔽率60%の地域なのに69.8%の建物があった場合、何かしらの緩和措置を受けた適法な建築物であれば、住宅ローンを利用しての購入も可能ですが、ただの建蔽率オーバーであれば住宅ローンが使えず、購入可能な人はかなり限られることになります。価格を下げて販売するのか、建物を解体してから販売するのかなど、その後の販売計画ががらりと変わってしまうため、重要な調査です。

対して②については、仲介の立場ですと正直あまり深くは関わらない可能性が高いです。自社で買い取って再販するような場合であれば、収益性を確認するためにある程度は調べなければなりませんが、最終的には自分で調査するというより、設計を担当する方の助力を得る機会が多いでしょう。

そもそも緩和措置を使わずとも希望通りの建物を建築可能であれば、緩和措置の利用可否は重要ではありません。建てたい建物が定まって初めて緩和措置の必要性が見えてきますので、建築計画のない段階ではあまり調査する必要がないという側面もあります。

さて、次は調査方法についてですが、①は役所に「建築計画概要書」が存在していれば、建築時にどんな緩和措置を利用したかが書かれていることが多いのであまり苦労せずに済みます。概要書が閲覧できた場合には第二面をくまなく確認しましょう。特に備考欄には緩和措置がそのまま記載されていることが多いので要チェックです。しかし、建築計画概要書は比較的新しい物件でしか保管されておらず、古い物件ですとその他の情報を辿っていく必要がでてきます。

※画像は概要書 第二面から物件住所等を除き、一部を切り抜いたものです。

次に重要な資料は「検査済証」です。入門編で簡単に紹介しましたが検査済証が存在していれば、少なくとも建築した当時は適法な建築物であったことがわかります。逆に、検査済証がなく建蔽率がオーバーしている場合などは、ほぼほぼ違反建築物だろうということがわかります。「検済があるなら当時は適法だったのだろう、何かしらの緩和を受けているはず」なのか、「建確はあるが検済がない、恐らく違反建築物だろう」なのか、その後の調査の方向性を絞ることができるので早い段階で確認しておきたいところです。概要書と検査済証はほとんどの場合で同じ窓口、建築指導を管轄しているところで確認ができますのでまとめて確認すると良いでしょう。

ここからは見る機会の多い緩和措置を紹介していきたいと思います。


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建蔽率の緩和

まずは建蔽率の緩和ですが、考え方は非常にシンプルです。以下のいずれかに該当すれば緩和措置を受けることができます。

 A:角地(+10%)
 B:防火地域の耐火建築物、準防火地域の耐火・準耐火建築物(+10%)
 C:A + B(+20%)
 D:指定建蔽率80%・防火地域の耐火建築物(制限なし)

建蔽率の解説を覚えているでしょうか。建蔽率には「火災時に延焼しにくいように敷地内に空地を設ける」という意図がありました。これを思い出すとそれぞれの規制緩和がなぜ認められるのかもよくわかります。

角地であれば2方向は道路に囲まれておりすでに空間が確保されていますし、消防車や救急車等が直接敷地にアプローチしやすく被災時の救助活動が捗ります。次に防火地域・準防火地域の緩和ですが、そもそもに燃えにくい建材であれば「延焼のリスクは少ない」と考えられます。したがって建蔽率を多少緩和しても問題がないのです。

注意が必要なのは「A:角地」については、見た目が角地かどうかだけでは判断できません。正式には「特定行政庁が指定する角地」という表記であり、役所が認める角地である必要があります。この条件については「角部分が120°未満である」とか「敷地境界線の◯/◯以上が道路等に接している」など、市区町村によってまちまちですので確認しておき、判断に迷う場合は役所の窓口で見解を聞いておくと良いでしょう。

念のため概要書のサンプルをご用意しました。画像上部の80%はこの地域における指定建蔽率を指しています。それに対し、画像下部の備考欄には「防火地域内 耐火建築物」とありますので、この物件は「D:指定建蔽率80%・防火地域の耐火建築物(制限なし)」に該当し、建蔽率の表記が100%になっていることがわかります。

※画像は概要書 第二面から一部を切り抜いたものです。

容積率の不算入措置

次に容積率に対する緩和措置です。建物のなかで要件を満たす部分は容積率の計算をするときに延床面積から除外してもいいという「不算入措置」が存在しています。具体的には「地下」や「共用廊下」「駐車場」などがよくある事例です。不算入措置の対象となる部分は、徐々に増えているのですが、一旦執筆時点での対象範囲を列挙しておきます。

  • 地階の住宅又は老人ホーム等の部分
  • エレベーターの昇降路の部分
  • 共同住宅又は老人ホーム等の共用廊下等の部分
  • 認定機械室等の部分
  • 自動車車庫等の部分
  • 備蓄倉庫の部分
  • 蓄電池の設置部分
  • 自家発電設備の設置部分
  • 貯水槽の設置部分
  • 宅配ボックスの設置部分

不算入措置は「駐車場」については歴史が古く昭和39年から存在しますが、「地階」は平成6年以降、「共用廊下」は平成9年以降と比較的新しいものが多いです。建てられた時期によって使えたもの、使えなかったものが違っていますので注意が必要です。

容積率の不算入措置を使えば、建物を大きくすることができ、マンションであれば部屋数を増やすことができます。マンションを建てる側からすれば販売できる部屋が増え、儲けに直結する部分ですので、近年のマンションで不算入措置を使っていないものは個人的には見たことがありません。当然使っているだろうという前提で「どの不算入措置を使っているか」「それぞれ◯㎡か」を調査しましょう。不算入措置も概要書 第二面に詳しく記載されているはずですので、まずは概要書を確認してください。

※画像は概要書 第二面から一部を切り抜いたものです。

ちなみに、不算入措置に利用した箇所は、建築後に別の用途に切り替えてはいけないことになっています。駐車場だったところを後日、コインランドリーにしてしまった事例を知っていますが、建築当時に利用した不算入措置が無効になってしまうため、その分の容積率緩和がなくなってしまいます。そうなれば、建築時には適法だった物件も容積率オーバーになってしまい、建物の資産価値が激減します。不算入措置について役所で確認できたあとは、該当箇所が届出の内容と齟齬がないか確認が必要です。

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監修者

宅地建物取引士・公取協認定不動産広告管理者
野村 道太郎

大手不動産会社、不動産専門 広告代理店を経て現在は『不動産会社のミカタ』『役所調査のミカタ』の編集長を兼務。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

※実績等:初心者向けセミナー「よくわかる役所調査」受講者アンケート結果:満足度96.3%、全国3,000社が利用した「役所調査チェックシート」企画・制作、業務効率化ツール「スマホで役所調査メモ」企画・設計・監修 など

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