ここからは建築確認・検査済証について解説します。といっても、制度の概要については「入門編」で触れていますし、調査時の重要資料である建築計画概要書がここまでに何度も登場していたり、大まかな調査方法も建築基準法の「緩和措置」の中で触れていたりと、基本的な部分の多くは既出であったりします。
何となくのイメージは既についておられるかもしれませんが「調査時には何を確認しなければならないか」「どのように調べるのか」といった具体的な部分についてはカバーしきれていない部分がありますので、補完していきたいと思います。

監修者
宅地建物取引士
荒川 竜介
新卒から合計4年半不動産仲介の現場に従事。 その後、マンションリサーチ社の執行役員を経て、2018年12月にミカタ株式会社 代表に就任。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

監修者
宅地建物取引士
荒川 竜介(プロフィール)
台帳記載事項証明
建築確認に関連する情報の調査をする目的は既存建築物の遵法性を確認することです。なので、最も重要なのはやはり下記の2点になるでしょう。
- 建築確認済証の有無
- 検査済証の有無
① ② どちらも存在を確認できれば建築当時は遵法性が確保されていたことがわかります。
そしてこれらを確認するためには台帳記載事項証明という書類を取得してください。建築指導課など建築確認制度を管轄する窓口で取得できるはずで、窓口に設置されたパソコン等からセルフで出力できる場合もありますが、まだまだ「窓口で取得」という役所が多いと思います。その場合、申請書に物件を特定するための情報(建築年月日、敷地面積、延床面積、構造、用途、建築主 等)を記入して提出する必要があるので、登記情報や取得当時の情報が記載されたカタログなどがあると捗ります。
ちなみに、初めて行く役所でなければこの申請書は1枚持ち帰っておき、コピーを事務所に保管しておくことをおすすめします。役所より事務所で書いたほうが楽ですし、会社の方針にもよるかと思いますが社名・所在地といった情報は、会社のゴム印で済ませられることもあるでしょう。私の場合は社名や住所、担当者名といった物件に左右されない項目は事前に記入済のものをコピーして保管しておくようにしていました。
さて、そろそろ書類の中身に触れていきたいと思います。台帳記載事項証明には確認済証と検査済証の交付記録が記載されます。まず取得ができるか、そして取得ができたら確認済証・検査済証について記載されているかを確認します。役所によって若干書式が異なりますが、基本的に書いてある情報はほぼ変わりません。下記にサンプル画像を用意しました。


建築当時に確認済証・検査済証を取得していれば、それぞれの欄に交付(発行)年月日・番号が記載されているはずです。これらの情報は重説にも記載が必要になる重要な情報ですので確認をしていきます。
もしも確認済証は記載があるのに検査済証の欄だけが空欄であれば、建築完了時に検査を受けていない違反建築である可能性が疑われます。原因としては様々なパターンがありますので詳しく調べていく必要がありますが、よくあるのは容積率オーバーや用途変更(居室でなかったはずの部分を居室にしてしまった)などですので、ひとまずは当時の法規制下における容積率と現状の容積率を比較してみると良いでしょう。
ちなみに台帳記載事項証明は1枚だけとは限りません。特にマンションの場合に多いのですが、昇降機(エレベーター等)を始めとする建築設備や、擁壁や看板、塔屋といった工作物の中には建築確認が必要なものがあり、調査対象物件にそういったものがあれば建物自体とは別に確認済証・検査済証が存在するはずだからです。物件に附属する建築設備・工作物についてはできれば事前に存在する可能性を確認しておきたいところですが、役所の窓口で「本物件には他に取得可能な台帳記載事項証明はありますか?」と聞くと調べてくれたり、むしろ向こうから「複数ありますがどこまで必要ですか?」と確認してくれることもあります。とはいえ、基本的には能動的に漏れのない調査をして頂きたいので窓口頼りにはしないようにしていただけたらと思います。
また、台帳記載事項証明が複数になるパターンは他にもあります。それは確認済証の発行後に計画変更をしている場合(壁や柱の位置を変えたい 等)です。軽微な変更以外は変更の度に確認申請が必要ですから、その都度、確認済証が発行されます。つまり、台帳記載事項証明も計画変更の回数に応じた枚数を取得できるのです。計画変更の確認済証は、当初の確認済証の番号末尾に「変2号」「変3号」と変更の度に番号が更新されていくような表記がされることが多いので、そういった表記をみたら計画変更があっただろうということがわかります。
ちなみに計画変更をした物件の場合、最後の確認済証が記載された台帳記載事項証明にのみ検査済証の記載があり、それまでのものには検査済証の記載はありません。検査済証はあくまで「確認申請の内容通りに、適法に建築を行ったか」を証明するものですので変更前の建築確認に対応した検査は行われませんので当然です。
少し話が飛びますが台帳記載事項証明は安くありません。役所によりますが300円、400円といった金額をよく目にします。1枚だけでの取得であればあまり問題ないと思いますが、大規模マンションでエレベーターも複数あり計画変更も「変8号」まであるといった場合であれば10枚以上取得しなければならない可能性が出てきます。となると一気に調査費は膨れ上がります。個人的には1物件で6,000円以上かかった経験もありますので、大規模マンションの調査時にはお財布の中身はやや潤沢にしておかれることをおすすめします。
また、所属される会社によっては「計画変更の台帳記載事項証明は不要、最終の検査済証が記載されているものだけでいい」ということもあるでしょう。その場合、必要な取得枚数は少なくなりますが、重説には全ての確認済証の交付(発行)年月日・番号を記載することが多いため、それらの情報は調査が必要です。調査方法は次に解説する建築計画概要書が取得できるのであれば第四面に書かれているはずですので取得するだけで調査完了となります。もしも概要書の取得ができない場合には「台帳記載事項証明」という名称の基になっている「台帳」を閲覧すれば確認できるはずなので、窓口で取得したい台帳記載事項証明だけを取得しながら「記載事項を確認したいので台帳の閲覧もさせてください」と伝えましょう。大体の場合でやたら分厚く重たい冊子が出てきて、大体の場合で手書きなので「これ読めないな・・・」という経験までがよくある一連の流れであったりします。
建築計画概要書
これまでにも何度も登場してきた建築計画概要書ですが、「第二面の一部」など部分的な説明や例示に終止していたのでここでは網羅的な解説を心がけたいと思います。
そもそも建築計画概要書とは、建築確認申請時に提出が必要な書類のひとつです。読んで字のごとく建築計画の概要がまとめられており、建築主は誰かといった情報や当時の土地の状況や法規制について、建築予定の建物の規模・形状など、様々な情報を確認できます。
台帳記載事項証明と同じ窓口で取得できるはずで、建築確認制度を管轄する建築指導課での取得が基本になるでしょう。ちなみに前ページで「台帳記載事項証明は安くない」と話していましたが、建築計画概要書は意外と安いことも多いです。台帳記載事項証明の取得費用は「公的な証明書の発行手数料」という名目なので住民票や印鑑証明などの発行手数料に近い設定になっています。対して建築計画概要書の取得費用は役所によってまちまちですが「役所に保管されている書類のコピー代」という扱いになっていることがあり、1ページ10円といったように本当にコピー代のような金額で手に入る場合もあります。
実物を見たことがない方は見ていただいたほうがイメージが湧くと思いますので、ご自身の担当するエリアで比較的新しいマンションの概要書を試しに取得してみるのをおすすめいたします。また白紙のものであれば、役所のホームページで申請手続きの準備をするためにひな形が配布されていると思いますので簡単に手に入ります。
※念のため参考サイトとして東京都のページを置いておきます。
東京都都市整備局 HPより(参照日 2023/5/30)
本ページでも、上記東京都のサイトからひな形をお借りしてざっくりと構成を解説しておきましょう。概要書は基本的に、第一面から第四面までの4つのまとまりで構成されています。

第一面は申請が受理された際の受付印や、建築確認の年月日・番号などが記載されるヘッダーのような部分があり、その下に建築主の記載欄が続いていきます。そこからは更に工事監理者や施工者など、今回の建築に関わる登場人物がまとめられているようなイメージです。正直このあたりは関連する会社や資格者の情報が羅列されているだけですので、役所調査の段階ではあまりまじまじと眺めることはない部分だと思います。
概要書と言えば何と言ってもここから、第二面が最もお世話になるはずです。第二面には建築当時の状況がかなり詳しく記載されています。接道幅や既存建築物の建蔽率・容積率、利用している緩和措置の名称と内容など、知りたい情報が盛り沢山なので、役所調査に慣れてくると都市計画図よりもまずはこの第二面を見たくなるくらいには便利です。


次は第三面です。第三面はひな形をもってくると正直なにがなにやらという状況ですが・・・

第二面の次にお世話になる機会があるのはこの第三面だと思います。ひな形よりも実際のサンプルのほうがわかりやすいので都市計画道路の解説で使った画像を再登場させてみます。

参考画像が少し小さくわかりにくいかもしれませんが、第三面には周辺の住宅地図内に対象不動産の位置が示される付近見取図と、土地と道路、予定建築物などの位置関係を正確に表示した配置図が記載されています。
特に配置図には道路の幅員や接道幅、道路種別などが事細かに記載されていることが多く、道路の調査時には非常に役立ちます。中には配置図が小さすぎ文字の読み取りが困難な場合や配置図部分の保管がないようなこともあるのですが、第三面を見て情報を読み取れる図面が記載されていることがわかった瞬間は「ヨシッ!」と調査へのモチベーションが上がる瞬間です。(※個人の見解です)

最後は第四面です。ここには建築確認申請の履歴が細かく記載されており、計画変更を含めた全ての建築確認済証と検査済証の年月日・番号が表示されているはずです。前ページの台帳記載事項証明の解説時に少し触れていますが、台帳を閲覧して得られる情報は基本的に全て概要書の中に記載されているはずですので、概要書の取得ができる物件であれば台帳の閲覧が必要になることはないと思います。
建築基準法 第12条:定期報告
また、これまでの解説に出てきていない要素としては「定期報告」に関する情報も建築計画概要書には記載されています。これは重説に記載が必要な情報としては比較的新しい規定に関わるもので、建築基準法の第12条に定められている定期調査報告というものに関係しています。昇降機や防火設備など万全な状況かどうかが人命に関わるような、物件における安全を確保するために、こまめな点検を要する一定の設備について、定期的な点検とその状況の報告が物件の管理者に法律で義務付けられています。
概要書には「①対象となる設備を有しているか」「②調査・点検と報告の実施状況」が記載されていることがあります。ただ、②については最新の状況はわざわざ概要書に記載されていない場合も多く過信しないほうがいいでしょう。基本的には①の確認を主な活用方法としたほうがいいです。

なお、本マニュアルの作成時点においては重説へ記載が必要な情報は「第12条の対象となる住宅か」「対象である場合、報告書は存在するか」の2点のみとされています。前者は都道府県ごとに規定が決められていますので、事前に確認することができます。後者は役所で調べるというよりも物件の管理会社に問合せたり、管理費や修繕費などの調査時に管理会社から取得する重要事項調査報告書という書類に記載されていることが多いのでわざわざ役所で調査する機会は多くないでしょう。
ただ、コンプライアンスを重視する法人が買主である場合などは、更に「法律で定められた点検等をちゃんと実施しているか」も購入を検討する上で重要な要素とすることも多く、そうした場合には追加調査が必要になります。建築計画概要書を取得する窓口かその近くで、直近の定期調査報告書の提出状況や、調査結果の概要を記載した「定期調査報告概要書」または「定期検査報告概要書」の閲覧ができるはずなので主に下記3点を確認してください。
- 定められた頻度を守って点検等を実施しているか
- 調査の中で何か問題点は見つかっていないか
- 見つかった問題点は対処済か
正直、この第12条に関連した調査については、所属される会社や買主様によって求めるレベル感が大きく異なってくる部分ですので、ご自身の環境下ではどこまでが求められるのか、確認をしていただいてから調査をされたほうが良いでしょう。
写しの取得不可、閲覧のみの場合もある
建築計画概要書は役所によって「写しの取得はできません。閲覧のみ可能ですので必要な情報はメモしてください。」という不動産会社泣かせのスタンスを取っている場合があります。具体的な事例を挙げておくと都庁では概要書は閲覧のみで、写しの取得も写真撮影も認められていません。都内では延床面積が10,000㎡を超える建築確認ですと、市区町村ではなく都の管轄になるため大規模なマンションなどは概要書の写しが手に入らないということになります。
この場合でも重説では概要書に記載された情報は必要になりますのでメモは取らなければなりません。どのようにメモを取るかですが、都庁の場合は白紙の概要書を「メモ用紙です」といって支給してくれました(2023年4月時点)。必要な情報を書き取るのは大変ですが、項目名はメモを取る必要がなくなりますので非常に助かりました。しかし、今後もその素敵なメモ用紙を頂けるかどうかはわかりませんし、何度も試した結果として手書きはやはりあまり効率が良くありませんでした。そこで弊社ではまず、冒頭でも紹介した下記のサイトから概要書のwordデータを取得し、パソコンを持ち込んでwordデータにタイピングしてメモを取るようにしました。
東京都都市整備局 HPより(参照日 2023/5/30)
しかし、これも文字を打ち込んでいくと意図しない場所で改行が起きたり、空白部分を埋めているスペースを消すために何度もBackSpaceを連打したりと、細かいストレスが募ります。途中で嫌になりました。最終的にはwordデータを参考に、同じ見た目になるようExcelでメモ用のデータを作り直しました。Excelであれば入力を補助するために一部の項目を選択式にできますし、意図しない改行やBackSpaceの連打から開放されます。最初にデータを用意する手間はかかりましたが、その後の効率は格段に上がりましたのでメモ用データはExcel化を強くおすすめします。

もし社内でのご用意が難しければ、昨今ではフリーランス募集サイトで「wordの書面をExcel化してほしい」といった募集をかければ、かなり良心的な値段で候補者がみつかるはずです。弊社は直接関係ありませんしここで紹介してもフィーもなにもありませんが、大手サイトというと「クラウドワークス」や「ランサーズ」といったサイトの名前が挙がるかと思います。「フリーランス Excel 作成」といったキーワードで検索してみて、使いやすそうなサイトをお選びください。
ちなみに弊社では厳密にはExcelでもなく、Google社の提供するスプレッドシートというオンライン上で作成・編集ができるExcelに酷似したサービスを利用していました。都庁側の作業者にネット環境(スマホでテザリング など)が必要になりますが、入力した情報をリアルタイムに共有できるので、都庁での入力作業をアシスタントさんにやってもらい、入力内容に不備がないかを事務所にいる私が即チェック、漏れや追加の確認事項があればすぐにアシスタントさんに連絡し対応してもらうといった体制で調査を行っていました。概要書の写し取りは全項目漏れなくやろうとすると、慣れても約1時間、慣れておらずタイピング速度もあまり早くないという場合ですと3時間以上かかってしまうこともあったので、試行錯誤を繰り返した結果、最終的にはこのような形になっています。とはいえ、あくまで「弊社の場合」ではありますので、皆様にとって最適な方法をご選択いただければ幸いです。

監修者
宅地建物取引士
荒川 竜介
新卒から合計4年半不動産仲介の現場に従事。 その後、マンションリサーチ社の執行役員を経て、2018年12月にミカタ株式会社 代表に就任。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。