建築基準法 – 役所調査マニュアル[実践編]

監修者

宅地建物取引士
荒川 竜介

新卒から合計4年半不動産仲介の現場に従事。 その後、マンションリサーチ社の執行役員を経て、2018年12月にミカタ株式会社 代表に就任。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

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宅地建物取引士

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用途地域と用途境

ここまでにも、何度か登場してきた用途地域。それくらい役所調査を語る上では外せない主役級です。市街化区域の中を用途ごとに切り分けていくもので、大きくわけて住居系・商業系・工業系の3種、それぞれをさらに細かくしていき全13種が存在しています。(ちなみに、どれにも属さない「用途地域の指定なし」という地域も存在しますので、それも数えると14種になります)

上記の( )内は実務で接する機会の多い略称です。都市計画図などでは文字数が邪魔になるため短い表記が好まれ、2文字程度まで省略されることが多いですし、窓口でのやり取りもプロ対プロということでガンガン略称が飛び交います。入門編で紹介した呪文の一節目「イッテーソー」は「第1種低層住居専用地域」の最もポピュラーな略し方です。

さて、各用途地域では地域ごとに建てても良い建物の用途等が決められています。一番左上にある「第1種低層住居専用地域」が閑静な住宅地で、右下に行くにつれ徐々に建物の規模が大きく、用途は「静かに暮らす」「子育て」にはあまり適さないと思われる用途が解禁されていくイメージです。最後の工業専用地域にいたっては「危険性が大きいかまたは著しく環境を悪化させるおそれがある工場」も含めた全ての工場が許される反面、住宅や教育施設の建築はできなくなり、もはや住まないことを前提にします。

調査地がどの用途地域なのかは、基本的に都市計画図を閲覧した時点で確認ができるので、実務においては都市計画法と同時に調査することになると思います。調査したい土地が都市計画図(または用途地域図等)で何色なのかを見て、該当する用途地域を確認します。ちなみに、市区町村によって細かな色は違いますが経験上、住居系は緑から徐々に黄色に、商業系は赤系統、工業系は紫が多いように思います。

役所調査の時点では用途地域については「どの用途か」さえ確認できれば十分です。より細かな規制については、後ほど紹介する調査項目を確認すれば自ずとわかるからです。しかし、用途地域の確認でも厄介なケースは存在しています。それは「2種以上の用途地域にまたがっている場合」です。

用途境

都市計画図がカラフルなことからわかるように、1つの市区町村の中でもいくつもの用途地域が混在していますから、当然異なる用途が隣り合う境界線もそこら中にあります。ですから2種以上の用途地域にまたがってしまう土地もそこら中にあることになります。そしてこういった「異なる用途地域にまたがる場合」を実務では「用途境がある」「用途境界がある」「2用途にまたがっている」といったように表現します。(本マニュアルでは「用途境」とします)

調査で用途境を見つけた場合、各用途地域の種類と範囲を特定しなければなりません。解説用に参考画像を用意しましたのでご覧ください。

[参考画像:港区用途地域地区等図]

まず、そもそも参考画像の狭い範囲ですら6色もあり「異なる用途が隣り合う境界線はそこら中にある」というのがおわかり頂けたかと思います。さて、画像を横断している赤色のゾーンにご注目いただきまして、その中に茶色の線が見えるでしょうか。これは都市計画道路の計画線で、線に沿って道路番号が記載されていますので「都道412号線」であることがわかります。

次に赤いゾーンと、他の色の境界にあたる赤線にご注目ください。この赤線と茶色の線をよくみると、2色の線は並行しているのがおわかりいただけるでしょうか。さらに詳しく解説したいので参考画像内の赤い点線で囲われた範囲を拡大していきます。

画像左下の青い四角をみると、道路端から垂直に伸びる線があり「30m」と書かれていることを確認できます。これは赤線が「都道412号線の道路端から30mの位置」で並行していることを示しています。また、画像の下側中央をみると「商業」の文字がありますので、赤いゾーンは商業地域ということもわかります。

ではそろそろ用途境のサンプルを示したいので赤丸で囲われている「建築中」と書かれた建物にご注目ください。それはもうわかりやすく「建築中」の文字を割るように用途境がありますね。南側の赤い範囲は商業地域でした。北側の緑色の範囲は画像左側に「二中高」とありますから「第二種中高層住居専用地域」であることがわかります。

これで2種の用途地域について種類と境界線の位置を特定できましたが、安心するのはまだ早いです。この物件の用途地域は2種ではありません。

物件の右上を見ると僅かながら黄色い部分があることがわかります。図の右上に「一住」とありますのでここは「第一種住居地域」です。また、赤丸の直上にある緑色の四角を見れば、道路端から30mまでが第一種住居地域であることもわかります。ちなみに画像内には記載がありませんが、北東側の通りは環状3号線であることが、画像の範囲外に記載されていましたので、各用途地域の種類と範囲をようやく特定できました。

この物件の用途地域は下記の3種です。

 A:都道412号線の道路端から30mの範囲 = 商業地域(赤)
 B:環状3号線の道路端から30mの範囲 = 第一種住居地域(黄)
 C:AおよびB以外の部分 = 第二種中高層住居専用地域(緑)

今回のサンプルのような大通り沿いでは、用途地域の境界線が道路と並行することが多いだけでなく、規模の大きな建物も多いので、用途境を見つける機会も多いでしょう。ただ全ての場合で「道路端」が起点になるわけではないので注意が必要です。「道路中心線」を起点とする場合や、実際にはまだ道路が存在していなくとも「都市計画道路の計画線」を起点とすることもあります。様々なパターンがありますので、間違いのないよう慎重に確認しましょう。

続いて、先程の画像の少し東側に面白いサンプルがありますので、少しずらしてみます。

画像内の赤丸のなかを「◯」が3つ書かれた赤線が縦断しているのが見えるでしょうか。これも用途境で、道路中心線を起点としているものです。途中で屈曲していますが、都道412号線の南北にある道路それぞれの道路中心線を都道412号線まで伸ばし、都道412号線に接した地点で止め、その2点を結ぶとこのような線になります。

このサンプルが面白い点はまだあります。先程示した用途境が都道412号線を通過している部分をご覧ください。「用途境」と申し上げましたがその左右は全く同じ赤色、つまり同じ商業地域です。「同じ商業地域なのになぜ用途境なのか」その答えは画像内をよく見ると書かれています。左側の「商業」という文字の上には「600」という数字が記載されているのに対し、右上側は「700」となっています。この数字は後ほど説明する「容積率」という規制値を示したものです。左右はたしかに「商業地域」という点は共通しているものの、「容積率600の商業」と「容積率700の商業」という条件の異なる用途地域なので、やはり間を通る赤線は用途境なのです。

用途境は本当に様々なパターンがありますし、都市計画図を閲覧しただけでは中々読み取れないような厄介なものも多いです。また、仮に閲覧しただけで特定ができそうな場合こそ注意が必要で、本当に合っているのか、必ず役所の窓口で確認をすることを推奨します。万が一、勘違いしたまま重説を作成してしまった場合に、購入した人が「建てようと思っていた建物が建てられない」なんてことになれば、とんでもないことになります。役所調査における確認作業は、慎重過ぎるくらいが丁度いいのです。

地域・地区・街区について

ここからは「地域・地区・街区」の単元に移りますがいくつか注意点があります。これ以降「建蔽率・容積率」「その他の制限」までの内容は、用途地域ごとに定められる制限が多いです。つまり用途地域が2種の物件であれば、それぞれの用途地域に対して各種の制限が定められている可能性が高いので、調査で確認すべきことが2倍になります。調査漏れが起きやすいので注意が必要です。ちなみに最後の単元「緩和・規制の有無」だけは物件全体で共通しますので、用途地域が何種であろうと確認は一度で問題ありません。

また、調査先についても少し補足をしておきたいと思います。用途地域以降の調査項目については、どんどん「建築基準法」の側面が強くなっていきます。したがって、確認先の窓口が都市計画を管轄する窓口ではなく、建築指導課などの建築関連の窓口になる可能性が高いです。しかし、役所によって対応する窓口には若干違いがありますので、調査したい市区町村の窓口については事前に確認しておくとよいでしょう。

話を地域・地区・街区に戻します。地域・地区・街区とは、都市計画区域内を目的に応じて区切り、様々な制限をかけていくもので、実は大きな分類の中では用途地域も含まれています。用途地域だけでも13種ありましたがさらに多種多様であり、全てを解説するのは現実的ではありません。まずは最も頻出する防火規制高度地区について解説し、それ以外については概要、または名称のみを記載するに留めます。

防火規制

防火規制は火災による被害を最小限にするために指定されるものです。用途地域と同様に、役所調査の時点ではそれぞれの内容はあまり重要ではなく、調査地が5つのうちどれに該当するのかを確認すれば問題ありません。

  1. 防火地域
  2. 準防火地域
  3. 新たな防火規制区域
  4. 建築基準法22条区域
  5. 防火規制なし

調査地が防火規制のある地域だった場合には建物の規模等に応じて「燃えにくい建材を使わなければならない」といった規制を受けることになります。防火地域と準防火地域は、都市計画区域内で火災によるリスクの多寡により指定され、準防火よりも防火のほうが厳しい制限になっています。そして、いずれにも指定されなかった地域や、都市計画区域外の木造住宅地は22条区域になるのが一般的です。

③の新たな防火規制区域は比較的新しいもので、阪神大震災をきっかけに木密地域と呼ばれる「古い木造住宅が密集した住宅地」では、震災時に火災が起きると甚大な被害を生じることが認識され、そのリスクを軽減するために設けられました。ざっくりといえば「準防火以上、防火未満」の厳しさになっています。「建て替えるならそれなりに燃えにくくしてね」という意図があり、これにより木密地域内での建て替えが進めば、徐々に火災リスクが減っていくことが期待されています。

高度地区

高度地区は、建物の高さの限度を決めるものです。市区町村ごとに様々なパターンがありますが大きな方向性は2つで、地域の住み心地を守るために「◯mまでの高さしか建てられません」という最高限度を設けるか、街として発展させるために「最低でも◯m以上の高さにしてください」という最低限度を設けるかです。

基本的に「第◯種高度地区」といった表記をされ、◯の中には数字が入ります。第1種高度地区、第2種高度地区のようなイメージです。何種まであるかは市区町村ごとに違っており、東京ですと3種ですし、千葉市は2種まで、横浜市はかなり細かく最高限度7種、最低限度3種が定められています。

そして高度地区では単純に「◯mまで」といった水平的な高さだけを決めるだけでなく、北側のお隣さんの日当たりを確保するために、土地の北側に対し斜線制限を設ける場合があります。ちょっと言葉での説明が難しいので品川区の資料をお借りしたいと思います。

[参考画像:品川区 建築のてびき

図の中で、土地の北側が斜めに切り落とされているのが斜線制限です。建物を建てるときにはこの斜線を超えてはならず、こうすることでお隣の日当たりが確保されるようになります。斜線制限を知ってから近所を歩くと、周りの建物の北側が実は斜めになっているのに気付くはずです。ぜひ「あ、あれは斜線制限か」とつぶやいて不動産屋さんっぽい空気を出してみましょう。

絶対高さと最高高さ

高度地区を調べていくとよく「10m第1種」とか「31m第3種」とか、先頭に高さが表記されているものを目にしますが、これらは基本的に最高限度を表しています。「10m第1種」は「10mまでしか建ててはいけない第1種高度地区」ということですね。こうした高さの限度は「絶対高さ」または「最高高さ」などと呼ばれます。

しかし「絶対高さ」という呼び方をする場合、一般的には少し限定的な制限を指していることが多いので補足しておきたいと思います。具体的には建築基準法第55条のことで「1低層・2低層・田園住居地域において、建物高さは10mか12mのどちらかを最高限度にしなければならない」という規定で高度地区とは別の制限です。記載した低層住居系の3用途はいずれも閑静な住宅街を前提にしていますので、高い建物を作らず落ち着いた住環境を維持したいという意図です。単に「絶対高さ」という場合には、この低層住居系の用途だった場合に設定しなければならない高さ制限(55条)を指していることが多いので覚えておくとよいでしょう。

ちなみに、高さの最高限度は先程の低層住居系 3用途以外でも定めることができますが、その場合には高度地区により制限を設けます。低層住居系の用途では「絶対高さ」を決めておかなければなりませんでしたが、高度地区の設定は任意ですからあったりなかったりします。

そして、この高度地区により任意で定める高さの限度は「最高高さ」や「最高限度」などと呼ぶことが多いのですが、市区町村によっては「絶対高さ」と呼ぶことがあります。つまり「絶対高さ=10mか12m」とも言えないため注意が必要なわけです。

身も蓋もありませんが、ここまでを踏まえ「絶対」なのか「最高」なのか、これらの呼び方はあまり気にしないほうがよいです。いずれにしても最高限度を指していて、低層住居系の用途だったら絶対に10mか12mの制限があるはず、というポイントをしっかり押さえましょう。

高度地区の調査をまとめます。確認事項は下記の通りです。

  • まずは高度地区の指定があるかないか
  • ある場合は第何種か
  • 低層住居系の用途は絶対高さの確認が必須(10mか12mか)

ちなみに高度地区は市区町村ごとに詳細な規定が異なるからか、説明用の資料を用意している市区町村が多いので、資料があれば受け取ってしまうのが手っ取り早いです。

特別用途地区

特別用途地区とは、用途地域の規定だけでは何かしら行き届かないことがある場合に、用途地域に重ねがけをして制限を厳しくしたり緩くしたりといった使われ方をします。元々は11種だけでしたが、最近では市区町村が自由に設定しても良いことになりましたので、地域によって独自の制限がある場合もあります。まずは、基本の11種を列挙しておきます。

  1. 特別工業地区
  2. 文教地区
  3. 小売店舗地区
  4. 事務所地区
  5. 娯楽・レクリエーション地区
  6. 観光地区
  7. 特別業務地区
  8. 厚生地区
  9. 中高層住居専用地区
  10. 商業専用地区
  11. 研究開発地区

都市部で比較的見る機会が多いのは「文教地区」です。大学や研究所等の教育施設、美術館・博物館等の文化施設がある地域で指定され、教育上よろしくない風俗やギャンブル等の業種を制限するもので、大きな学校がある地域などでは見る機会があるでしょう。

各地区の指定状況は地域でまちまちであり、あまり出現頻度が多い規定ではないため、ここでは詳細は割愛します。もしも調査対象地が指定地区内だった場合、用途地域の確認時に同時に確認ができると思いますので「どういった制限を受けるのか?」も併せて確認するようにしてください。

※上記URLから各地域に該当した場合に重説に記載が必要な説明文のサンプルをご覧いただけます。

風致地区・地区計画区域・駐車場整備地区 等

ここまでに説明したもの以外にも様々な地域・地区・街区が存在しています。高度地区のように高さに関するものもまだ複数ありますし、農地・史跡・自然公園など既存の環境を保全するためや、駐車場など地域に必要と思われる施設を確保するためなど、その目的は様々です。ここでもまずは一般的なものを一気にご紹介し、次に都市部で比較的見る機会のある3種について補足します。

  • 高度利用地区
  • 特定街区
  • 景観地区
  • 風致地区
  • 災害危険区域
  • 地区計画区域
  • 特例容積率適用地区
  • 特定用途制限地域
  • 高層住居誘導地区
  • 駐車場整備地区
  • 都市再生特別地区
  • 特定防災街区整備地区
  • 建築協定区域
  • 臨港地区
  • 緑化地域
  • 生産緑地地区
  • 特定用途誘導地区 など

風致地区

風致地区の説明をするために、一旦は国土交通省の文書を引用します。

風致地区は、都市における風致を維持するために定められる都市計画法第8条第1項第7号に規定する地域地区です。
「都市の風致」とは、都市において水や緑などの自然的な要素に富んだ土地における良好な自然的景観であり、風致地区は、良好な自然的景観を形成している区域のうち、土地利用計画上、都市環境の保全を図るため風致の維持が必要な区域について定めるものです。

※国土交通省『風致地区制度』https://www.mlit.go.jp/toshi/park/toshi_parkgreen_tk_000072.html , 2023/3/31参照

ざっくりといえば有名な公園の周辺地などで、自然豊かな雰囲気を守るために指定されるものです。具体的な制限をみても、木の伐採や土石の採取をするにも許可が必要といった条項がありますので、環境の良さを維持したい意図を感じることができます。

風致地区に該当していた場合、周辺環境へ配慮をしながら建築計画を進める必要が出てきます。実際にどういった制限を受けるのかについては、窓口で説明を受けつつ案内資料やリーフレットがあれば取得すると良いでしょう。

地区計画区域

地区計画は、まちづくりを単位とする「都市計画」と、敷地内の建物を単位とする「建築計画」の間の規模感、ある程度の広さがある地域一帯に対してルールを定める制度です。国土交通省のイメージ画像がわかりやすいので引用します。

※国土交通省『みんなで進めるまちづくりの話⑧』https://www.mlit.go.jp/crd/city/plan/03_mati/08/index.htm , 2023/3/31参照

都市計画は広い範囲にざっくりとした方向性を示すものですので、細やかさに欠けています。対して建築計画は、建築基準法により細部まで制限できるものの敷地ごとにしか適用ができないので、地域一帯を計画的に開発するのには向きません。そこで都市計画よりも狭い範囲でより細やかな規定を設けられる地区計画が活用されるのです。

具体的には、道路や公園・遊歩道などの地区施設をどこに整備するのかや、保全すべき樹林地を定めたり、用途地域よりも細かい建築制限を定めたりしています。

地区計画には様々な種類がありますが、ここではその種類等には触れません。該当していた場合にはその地区計画の名称、どのような制限を受けるかを確認してください。地区計画も恐らく案内資料・リーフレット等がある可能性が高いので、取得できる場合には受け取っておきましょう。

駐車場整備地区

駐車場整備地区とは、建物の大きさに応じて決められた基準以上の駐車スペースを整備するように定めたもので「2,000㎡以上の場合は◯㎡ごとに1台分を確保してください」といった内容になっています。

例えば、とても人気のある商業施設の土日を思い出してください。駐車場が満車になってしまって、空き待ちの車がズラッと並んでいるのを見たことがないでしょうか。商業地などそもそもに人出の多い地域で、空き待ちの列がそこら中にできてしまうと、環境にも悪いですし、宅配業者等の物流や、バスなどの公共交通機関、最悪のケースでは緊急車両などにも悪影響が考えられます。また、駐車場に余裕があることで人が来やすくなり、さらに街が活性化するのでは、といった期待をする側面もあるようです。

しかし、最近では以前よりも車で出かける人が減少傾向にあり、すでに自家用車向けの駐車場は供給過多になっているような地域も出始めました。そうした地域では独自に条例等を設け、より実態に即す制度を模索している場合もあります。バリアフリー化の促進や、荷捌き用駐車場を点在させたり、電気自動車への対応を検討したりなど、比較的移り変わりの激しい分野なので、過去に調査したことがあっても注意が必要です。
調査時には物件が該当するのかだけではなく、その地域ではどういったルールがあるのか、調査経験があっても直近で改正がなかったかまで確認するようにしましょう。

建蔽率・容積率

建蔽率と容積率はいずれも建物の大きさに対する制限で「◯%」といった割合で示されます。用途地域ごとに基準となる数値が指定されているので、用途地域と同時に調査できるはずで、実際に用途地域の説明で使用した画像を見ると書いてあります。


それぞれの用途地域が記載された円の上下に数字があり、これがそのまま各地域の建蔽率・容積率を示しています。参考画像に記載された各地域の数値をまとめると以下の通りです。

  • 商業 :建蔽率80%、容積率600%
  • 二中高:建蔽率60%、容積率300%
  • 一住 :建蔽率60%、容積率400%

建蔽率・容積率の調査はひとまず「調査地は何%なのか?」を最優先で確認してください。ちなみにこの地域ごとに指定された数値を指定建蔽率」「指定容積率といい、建物を建てるときにはこの数値を超えてはならない上限値となります。

ちなみに建蔽率・容積率は突き詰めると複雑で面倒ではあるのですが「役所調査の時点で確実に押さえておくべき必須情報」というとかなりシンプルで、以下の3点になります。

  • 指定建蔽率
  • 指定容積率
  • 容積率低減係数

建蔽率

建蔽率とは土地全体の面積(敷地面積)に対して建物が建築される面積(建築面積)の割合を指しており、100㎡の土地のうち60㎡の範囲に建物が建っていれば建蔽率は60%になります。

建築面積というとちょっとイメージがつきにくいかもしれませんが、乱暴にいえば物件を真上から見下ろして土地が建物で隠れる範囲が、ほぼほぼ建築面積と言えます(軒先1mまでは計上しないとか細かな規定があるので厳密には正しくない表現です)。あくまで平面的なもので、土地の範囲を超えて建物は建てられませんから100%を超えることはありません。

参考画像:世田谷区『建築ガイド 4-4 建蔽率』

ちなみに建蔽率は、建物の採光や通風を確保するという目的や、火災時に延焼しにくいようにといった目的から敷地内に空地を確保するために定められています。

容積率

次は容積率についてです。建蔽率と容積率の大きな違いは建蔽率 = 平面容積率 = 立体という点です。分母は建蔽率と同じ「敷地面積」ですが分子が異なっており、建物全体の床面積を合計した「延床面積」を参照します。建物が2階建てで1階も2階も50㎡の場合は延床面積は100㎡となりますので、土地が100㎡だとすると容積率は100%になります。

参考画像:世田谷区『建築ガイド 4-5 容積率』

容積率には、建物の立体的な大きさを制限することで、その地域を利用する人口を制限する意図があります。道路や下水道などの公共インフラには対応できる人口に限界が存在しますから、想定外のキャパオーバーがおきないようにするのです。容積率を定めれば将来的に必要になるインフラの最大規模も予測することができますから、必要な場所に必要な規模のインフラを整備していくという合理的な開発を計画するのにも役立ちます。

ちなみに参考画像で示した用途地域はそれなりに大きな数値でしたが、制限の厳しい一低層などではもっと小さくなります。建蔽率40%・容積率80%という地域ですと、土地が100㎡だった場合、建物の1階・2階を40㎡ずつにすると容積率が上限である80%に達します。基本的には2階建ての一戸建てを前提とした建築制限ですね。余談ですが業界用語で、建蔽率40%・容積率80%の地域を「ヨンパチ」、建蔽率50%・容積率100%の地域を「ゴットー」と呼ぶことがありますので覚えておくと良いでしょう。

算定容積率と容積率低減係数

容積率には地域ごとに定められる上限値である指定容積率だけでなく、もう一つの上限規定が存在しています。「算定容積率」と呼ばれ、調査地の前面道路が幅員12m以下の場合に適用されるもので、指定容積率と比較してより数字が低い(厳しい)数値がその敷地の上限として適用されます。なお、調査地が2本以上の道路に接している場合には、より広いほうの道路を基準にしてよいことになっています。

算定容積率の計算には「前面道路の幅員」と「容積率低減係数」という数値を用います。容積率低減係数というのは4/10、6/10、8/10(0.4、0.6、0.8)のいずれかが用途地域ごとに指定されているもので、低層住居系であれば0.4になりますが、それ以外の地域では市区町村によってまちまちなので確認が必要です。

計算式は「前面道路の幅員 × 容積率低減係数 × 100%」です。仮に前面道路の幅員が4mで低減係数0.4の地域ならば「4m×0.4×100%=160%」という計算になります。指定容積率が80%の地域であれば、80%のほうが低いのでそのまま指定容積率が適用されますが、指定容積率が200%の地域では、計算で求めた160%のほうが低いので、指定容積率でなく160%の算定容積率がその敷地の上限となります。

この前面道路幅員による容積率の制限については、あまりイメージがついていない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、先だってお伝えした容積率の意図を思い出せば意外とすんなりと納得がいくものです。容積率の意図は「人口を制限し、インフラのキャパオーバーを防ぐ」でした。インフラのキャパシティとはつまり上下水道管の太さとも言えますから、狭い道路しか通っていない地域ですと、当然に道路配管の管径が細くなってしまい給水量・排水量も制限されてしまいます。したがって「狭い道路しかない=細い上下水道しか通せない」という地域に対しては、地域一帯に定められた指定容積率とは別に道路幅員による容積率制限が必要なのです。

ちなみにもう少し単純な理由も存在しています。建築基準法の立法趣旨の中でも特に重視されているのは「防災」、さらに言えば「火災対策」です。大きな建物で火災が発生した場合には被害も規模に比例して大きくなる恐れがあります。そんな場合に建物正面に狭い道路しか通っていなければ、消防車や救急車の救助活動に支障が出てしまうかもしれません。防災の視点から見れば「道路が狭い」というのは非常に大きなリスクとされており、こうした「救助活動への対応能力」は道路というインフラに求められる基本性能であって、絶対にキャパオーバーをするわけにはいかない部分です。

こうした諸々の理由から、道路が狭い場合には容積率への制限が必要不可欠なのです。

※道路は防災上、非常に重要なインフラであることがわかると、意図が見えてくる制限は他にもありますので覚えておいて損はありません。(代表的なところでは「接道義務」も防災を強く意識した制限になっています。)

斜線制限

斜線制限は建物の高さに対する制限の一種です。3種類ありますが、どれも敷地や道路の通風・日照・採光確保を目的にしており、起点となる位置から決められた角度・距離で斜線をひいて、その斜線を超えて建物は建てられないという決まりです。

完璧に理解しようとするとかなり難しいのですが調査自体はシンプルで、基本的に制限の有無が用途地域ごとに決まっています。しかも制限の内容もある程度決まった型があり、高度地区のように「市区町村ごとに詳細が異なる」ということもありません。用途地域を確認した時点で、制限の有無も内容もほとんどがわかってしまうので、わざわざ追加で確認すべきことがあまりないのです。ただ、稀に何かしらの地域・地区・街区や条例の影響で、特例的に適用・非適用になっているようなこともありますので、そういった特例の有無だけは気をつけておきましょう。

確認事項が少ないとはいえ、概要は把握しておかなければ調査も捗りませんのでざっくりと解説はしておきたいと思います。まず斜線制限は下記3種です。

  1. 道路斜線制限
  2. 隣地斜線制限
  3. 北側斜線制限

① 道路斜線制限は、物件が面する道路の境界線を起点としますが、物件が接する側でなくお向かいさん側から斜線をひきます。なぜ反対側なのかというと、道路の幅員が広ければその時点である程度の空間が生まれ、通風・日照・採光が確保されますから「幅員が広いなら制限を緩くする」という意図です。道路はインフラの基礎であり、非常に重要度が高いものですので全ての用途地域に設定されます。

参考画像:世田谷区「建築ガイド 4-7 建築物の高さの制限」

② 隣地斜線制限は、隣地との境界線を起点に、その上空20mか31mの高さから斜線をひきます。そもそもに起点の位置が高いので、絶対高さ制限によって12mよりも高い建物が建てられない低層住居系の用途地域では適用されません。

参考画像:世田谷区「建築ガイド 4-7 建築物の高さの制限」

③ 北側斜線制限は、高度地区でもほぼ同じ名称が出てきましたね。基本的な考え方は同じです。北側のお隣さんの日当りが悪くならないよう、敷地の北側から斜線をひきます。「日当り」という住環境のための制限ですから人が住んでいる地域を前提としており、田園住居を含む低層系~中高層の住居専用地域にのみ適用されます。

ただ、1中高と2中高の中には、次項で紹介する日影規制が適用される地域があります。その場合、北側斜線よりも日影規制のほうが厳しいため、北側斜線は非適用となりますので注意が必要です。以下に斜線規制と用途地域の関係性を表にまとめました。

ちなみに、ここでいう③ 北側斜線制限高度地区によって定められる北側斜線は、似ていますが根拠となる建築基準法が違うので別物です。(③=56条、高度地区=58条)

しかし、調査時点ではあまり重要ではないので細かく覚えなくても大丈夫です。
一応違いをざっくりまとめておくと、③ 北側斜線制限は住居専用地域なら適用されるもので、用途地域によって「型」が決まっているので制限の詳細は調べなくても大丈夫です。対して高度地区は、それ自体がどこに設定するか任意の制度ですし、内容も市区町村によってまちまちなので、都度調査が必要です。

また、高度地区は任意であるところを「わざわざ制限する」わけですから、多くの場合で③よりも厳しい制限になっています。斜線制限については、いくつかの規制緩和措置が存在していますが「③は緩和できるが、高度地区は緩和できない」というものがあったりします(天空率)。なぜそのようなことが起きるのかというと、このように似ていても厳しさが違うためだと考えると整理がしやすくなります。

日影規制

日影規制も斜線制限同様に「難しいけど調査はシンプル」な高さの制限です。物件周辺の日照を著しく損なうことがないよう、「お隣さんの敷地に日影を作っていいのは◯時間まで」と時間まで明確に区切って制限を受けます。詳細よりも、まずは書式を覚えましょう。

◯h-△h、◆m
(例 3h-2h、1.5m)

多少書き方が違うこともありますが要素は変わりません。2つの時間(◯h-△h)と高さ(◆m)という3要素で構成されます。もうはるか昔になってしまいましたが、入門編で紹介した呪文の末尾「3時間2時間、1.5m」と書かれていたものがまさに日影規制の表記です。

多くの場合、用途地域と同じ窓口で確認ができ、日影規制がある地域であれば、用途地域の確認をした流れで一緒に教えてくれます。役所の窓口担当者がどんなに無愛想でも2つの時間と高さを伝えられたら日影規制だと思いましょう。正直、調査だけが目的であれば書式だけ覚えておき、メモをとることができれば問題ありません。しかし、念のため制度の中身も簡単に解説をしておきます。

日影規制の基本的な考え方は「決められた基準よりも長い時間、隣地に日影を作ってはいけない」というものです。ただ、日影ができる時間というのは季節等によって異なりますから、前提条件を整えておく必要があります。

日影を観測する「時期・時間帯」

まず、日影を観測すべき時期・時間帯が決まっており、通常は「冬至の8時~16時」を基準とすることになっています。冬至を基準とするのは2つの理由があり、①日照時間が最も短い、②太陽が最も低く影が最も長く伸びるからです。特に重要なのは後者で、影が長い=落ちる範囲が広いとも言えます。日影規制はその物件の影ができる範囲内で、影ができた位置ごとにそれぞれの用途地域に定められた制限が適用されます。複数の用途にまたがる可能性がある場合には、影ができる範囲内全てで基準を満たさなければならず、影ができる可能性がある範囲を漏らさず観測可能な冬至に観測するのです。

範囲

次は観測する範囲を規定します。規制対象は下記2つのゾーンにわかれています。

(1)敷地境界線から5~10mの範囲
(2)10m超

参考画像:世田谷区「建築ガイド 4-10 日影規制のあらまし – 測定線」

日影規制では2つのゾーンそれぞれに対し、連続で日影を生じてもいい時間の上限を設定していきます。
例えば「(1)5~10mの範囲は3時間以内(2)10m超は2時間以内」といったようにです。そして、まさにこの各ゾーンに対する上限値を示しているのが日影規制の冒頭で覚えていただいた書式「◯h-△h」であり、先述の例は「3h2h」と表記されます。

ちなみに「連続で日影を生じる時間」というと何となく言いたいことはわかるものの、お客様から「詳しく解説してほしい」と言われると意外と困る方も多いのではないでしょうか。本マニュアルでは実際にどのように日陰ができる時間が算出されるのか、大まかな流れは追っておきたいと思います。

大前提として「日影は時間とともに形状が変わっていく」というのは簡単にイメージが湧くと思います。その変化していく影を1時間ごとに図に落とし込んでいくと下記のような図ができあがります(黒い四角が建物で、そこから伸びる影の外周を線で表現しています)。

参考画像:世田谷区「建築ガイド 4-10 日影規制のあらまし – 時間日影図」

この図を用いて、例えば「8時」の影と「11時」の影が重なる範囲があればそこは「8時~11時までの3時間、連続で影が生じる」ということがわかります。具体的には下記の図の青い範囲ですね。

次は上の図のABCDEに注目してみてください。これらの点は連続で4時間日陰になる範囲を表しています。
Aは8時の影12時の影が重なる部分の頂点です。つまりAを頂点とする範囲は8~12時の4時間はずっと日影になっているはずで、同様にBは9時~13時、Cは10時~14時、Dは・・・と、A~Eは全ての地点が連続で4時間日影になってしまいます。こうした「同じ時間、影ができる点」を結んでいくと今度は下記のような図を作ることができます。

参考画像:世田谷区「建築ガイド 4-10 日影規制のあらまし – 等時間日影図」

こうした図を「等時間日影図」とよびます。ここまでくればゴールはもうすぐです。最後はこの等時間日影図に、隣地境界線と5mライン・10mラインを書き入れ、日影規制で定められた上限期間を超えてしまうゾーンができてしまわないかを確認していきます。下記にサンプル画像を用意しました。ここでは日影規制が「4h-2.5h」の地域を想定してください。

参考画像:世田谷区「建築ガイド 4-10 日影規制のあらまし P38より抜粋」

「4h-2.5h」の地域ですので「5~10mの範囲で4時間以上の日影ができる部分」と「10m超の範囲で2.5時間以上の日影ができる部分」が上限を超える不適合部分となり、図の中で斜線で示される範囲が該当しています。建築時にはこの斜線部分がなくなるまで建物を小さくしなければ建築許可がおりないということになります。

測定面の高さ

最後は「◆m」という高さの部分ですが、これは日影を測定する高さです。通常は1.5m、4m、6.5mの3種いずれかが指定され、それぞれの高さは1階、2階、3階の窓の位置を想定した設定になっています。

参考画像:世田谷区「建築ガイド 4-10 日影規制のあらまし P37より抜粋」

つまり日影規制は測定面が低く制限時間が短いほど厳しい規定になっており、住環境の確保が目的ですから低層住宅地ほど厳しいものになります。実は例に挙げた「3時間2時間、1.5m」という数値はかなり厳しい地域のものだったりします。

敷地面積の最低限度(最低敷地)

ここまでの制限に比べ、非常にシンプルです。最低敷地は面積「◯㎡」で表記され「土地をこの数字よりも小さくしてはいけない」という決まりです。200㎡を上限として、それよりも小さな数字で定められます。

参考画像:世田谷区「用途地域の都市計画変更について P13より抜粋」

制限を設ける目的は建蔽率や斜線制限等に近いもので「防災」や「住み心地の確保」を目的として、建物同士が近づき過ぎないようにしたいという意図があります。

参考画像:世田谷区「用途地域の都市計画変更について P13より抜粋」

少し話が飛んでしまいますが、大きな土地があった場合はそのまま売るより分割したほうが儲かります。土地は大きくなると面積あたりの単価が下がっていきますので、200㎡を一人に売るよりも、真っ二つにして100㎡を2人に売ったほうが高く売れるのです。そして、多くの不動産屋さんは貪欲ですから、割れる土地は割ります。こういった貪欲な商売魂に歯止めをかけるための制度という側面もあるようです。

というのも、土地を細切れにしてしていくと狭い範囲に建物が密集してしまい、通風・防災上も悪影響がありますし、街並みも荒れます。高級住宅街というとゆったりとした敷地にドーンと大きな邸宅が立ち並んでいるイメージがないでしょうか。実はああいった高級住宅地には最低敷地が広めに設定されており、ゆったりとした街並みを意図的に保全しているケースが多くあります。また、容積率の説明でも少し触れましたが、インフラの整備はおおよその人口を予測してキャパオーバーしないような計画を立てていきます。細切れの土地が増えると面積あたりの世帯数が増えていきますので、こういった面でも必要な措置と言えるでしょう。

ちなみに、より不動産屋さんらしい視点をお伝えしておくと、調査したい物件が最低敷地も踏まえ「何分割できるか」というのは非常に重要です。きれいな形で複数に割れる土地は利幅が大きく優良物件だからです。

そういった点でいうと、例えば冒頭に記載した図のように最低敷地70㎡の地域だった場合には、140㎡の土地と139.9㎡の土地では価値が全く異なります。前者は2分割できる可能性がありますが、後者は分割できません。ゆとりある敷地のほうが需要が見込める地域であればそのままでもいいかもしれませんが、通常は割れるだけ割りたいのが不動産屋さんです。

老婆心ながら最低敷地は査定価格に大きく影響しますので担当されるエリアに定められている場合は規制値を覚えておいたほうが良いでしょう。先程の例に当てはめると、最低敷地70㎡のエリアで150㎡の土地の売却相談があれば「分割も視野にはいるから査定金額は伸ばせそうだ!」であるとか、135㎡の土地だった場合には「ぐぬぬ・・・割れないから135㎡のまま売るしかないぞ・・・このあたりの平均世帯年収からすると少し金額が高くなりすぎる。買い手を探すのは苦労しそうだ」といった目算が立つようになるのです。

「壁面線」と「外壁後退」

いずれも「敷地の境界線から建物をどのくらい離すか」という制限で、名称も若干似ているせいで混乱しやすいのでまとめて紹介します。

まず壁面線ですが、イメージとしては大きなビルが整然と並ぶオフィス街などがわかりやすいですね。壁面線は「道路境界線から◯mの範囲は建物を建築しないでください」といったルールを指定するものです。地区計画や高度利用地区などで、通りに沿ってズバッと線が引かれるケースが多く、通り沿いの建物の面(ツラ)を揃えることで、きれいな街並みにできるわけです。こうした使われ方からもわかるように、敷地単位で建築を制限する意図ではない制度と言えます。

丸の内仲通り、写真の奥までビルの面が一直線に揃っている

役所での調査時には「壁面線について調べる」というよりも、地区計画や高度利用地区のように地域一帯に対して建築制限をかけるようなローカルルールがないかを調べ、ついでに「ローカルルールの中に壁面線の制限が含まれていないか」を確認するような流れになるでしょう。

対して外壁後退は、根本の考え方が「絶対高さ」や「北側斜線制限」と同じで、低層住居系の用途地域(1低層・2低層・田園)に定められるもので、用途地域がわかった時点で制限の有無も確認できてしまうタイプの制限です。住宅街の環境を良好にするため「建物はすべての敷地境界線から1mまたは1.5m離さなければならない」という規定になっています。壁面線はあくまで道路からの後退距離を規定していましたが、外壁後退については隣地境界線からの後退距離も定める点は2つの制度の大きな違いと言えるでしょう。

ちなみに、後退距離は「1m」か「1.5m」のいずれかになりますが、どちらが適用されるのかは地域によってまちまちで「道路からは1.5m、隣地からは1m」といった地域もあります。役所での調査時には「じゃあ何mの後退がいるのか」を確認することになりますが、世の中に出回っている多くの重説ひな形は「有無」の記載のみでよく、後退距離の記載までは必須ではありません。買主様の事情にはよるものの詳細の調査は省略できる場合が多かったりします。

緩和措置(建蔽率・容積率)

ここまでに様々な制限について解説をしてきました。しかし、建築基準法には規制するものばかりでなく、制限を緩和するルールも存在しています。様々なものがありますが、見る機会の多いのは建蔽率・容積率を緩和するものでしょう。例えば「角地だったら建蔽率を10%緩和する」といったように、要件を満たせば地域ごとに定められた制限を緩めることができます。

ちなみに、役所調査で緩和について調べる場合、主に2パターンの視点が考えられます。

  • 既存建物の遵法性を確認す
  • 建てたい建物が建築可能か確認する

仲介の立場ですと、よく調査するのは①です。指定建蔽率60%の地域なのに69.8%の建物があった場合、何かしらの緩和措置を受けた適法な建築物であれば、住宅ローンを利用しての購入も可能ですが、ただの建蔽率オーバーであれば住宅ローンが使えず、購入可能な人はかなり限られることになります。価格を下げて販売するのか、建物を解体してから販売するのかなど、その後の販売計画ががらりと変わってしまうため、重要な調査です。

対して②については、仲介の立場ですと正直あまり深くは関わらない可能性が高いです。自社で買い取って再販するような場合であれば、収益性を確認するためにある程度は調べなければなりませんが、最終的には自分で調査するというより、設計を担当する方の助力を得る機会が多いでしょう。

そもそも緩和措置を使わずとも希望通りの建物を建築可能であれば、緩和措置の利用可否は重要ではありません。建てたい建物が定まって初めて緩和措置の必要性が見えてきますので、建築計画のない段階ではあまり調査する必要がないという側面もあります。

さて、次は調査方法についてですが、①は役所に「建築計画概要書」が存在していれば、建築時にどんな緩和措置を利用したかが書かれていることが多いのであまり苦労せずに済みます。概要書が閲覧できた場合には第二面をくまなく確認しましょう。特に備考欄には緩和措置がそのまま記載されていることが多いので要チェックです。しかし、建築計画概要書は比較的新しい物件でしか保管されておらず、古い物件ですとその他の情報を辿っていく必要がでてきます。

※画像は概要書 第二面から物件住所等を除き、一部を切り抜いたものです。

次に重要な資料は「検査済証」です。入門編で簡単に紹介しましたが検査済証が存在していれば、少なくとも建築した当時は適法な建築物であったことがわかります。逆に、検査済証がなく建蔽率がオーバーしている場合などは、ほぼほぼ違反建築物だろうということがわかります。「検済があるなら当時は適法だったのだろう、何かしらの緩和を受けているはず」なのか、「建確はあるが検済がない、恐らく違反建築物だろう」なのか、その後の調査の方向性を絞ることができるので早い段階で確認しておきたいところです。概要書と検査済証はほとんどの場合で同じ窓口、建築指導を管轄しているところで確認ができますのでまとめて確認すると良いでしょう。

ここからは見る機会の多い緩和措置を紹介していきたいと思います。

建蔽率の緩和

まずは建蔽率の緩和ですが、考え方は非常にシンプルです。以下のいずれかに該当すれば緩和措置を受けることができます。

 A:角地(+10%)
 B:防火地域の耐火建築物、準防火地域の耐火・準耐火建築物(+10%)
 C:A + B(+20%)
 D:指定建蔽率80%・防火地域の耐火建築物(制限なし)

建蔽率の解説を覚えているでしょうか。建蔽率には「火災時に延焼しにくいように敷地内に空地を設ける」という意図がありました。これを思い出すとそれぞれの規制緩和がなぜ認められるのかもよくわかります。

角地であれば2方向は道路に囲まれておりすでに空間が確保されていますし、消防車や救急車等が直接敷地にアプローチしやすく被災時の救助活動が捗ります。次に防火地域・準防火地域の緩和ですが、そもそもに燃えにくい建材であれば「延焼のリスクは少ない」と考えられます。したがって建蔽率を多少緩和しても問題がないのです。

注意が必要なのは「A:角地」については、見た目が角地かどうかだけでは判断できません。正式には「特定行政庁が指定する角地」という表記であり、役所が認める角地である必要があります。この条件については「角部分が120°未満である」とか「敷地境界線の◯/◯以上が道路等に接している」など、市区町村によってまちまちですので確認しておき、判断に迷う場合は役所の窓口で見解を聞いておくと良いでしょう。

念のため概要書のサンプルをご用意しました。画像上部の80%はこの地域における指定建蔽率を指しています。それに対し、画像下部の備考欄には「防火地域内 耐火建築物」とありますので、この物件は「D:指定建蔽率80%・防火地域の耐火建築物(制限なし)」に該当し、建蔽率の表記が100%になっていることがわかります。

※画像は概要書 第二面から一部を切り抜いたものです。

容積率の不算入措置

次に容積率に対する緩和措置です。建物のなかで要件を満たす部分は容積率の計算をするときに延床面積から除外してもいいという「不算入措置」が存在しています。具体的には「地下」や「共用廊下」「駐車場」などがよくある事例です。不算入措置の対象となる部分は、徐々に増えているのですが、一旦執筆時点での対象範囲を列挙しておきます。

  • 地階の住宅又は老人ホーム等の部分
  • エレベーターの昇降路の部分
  • 共同住宅又は老人ホーム等の共用廊下等の部分
  • 認定機械室等の部分
  • 自動車車庫等の部分
  • 備蓄倉庫の部分
  • 蓄電池の設置部分
  • 自家発電設備の設置部分
  • 貯水槽の設置部分
  • 宅配ボックスの設置部分

不算入措置は「駐車場」については歴史が古く昭和39年から存在しますが、「地階」は平成6年以降、「共用廊下」は平成9年以降と比較的新しいものが多いです。建てられた時期によって使えたもの、使えなかったものが違っていますので注意が必要です。

容積率の不算入措置を使えば、建物を大きくすることができ、マンションであれば部屋数を増やすことができます。マンションを建てる側からすれば販売できる部屋が増え、儲けに直結する部分ですので、近年のマンションで不算入措置を使っていないものは個人的には見たことがありません。当然使っているだろうという前提で「どの不算入措置を使っているか」「それぞれ◯㎡か」を調査しましょう。不算入措置も概要書 第二面に詳しく記載されているはずですので、まずは概要書を確認してください。

※画像は概要書 第二面から一部を切り抜いたものです。

ちなみに、不算入措置に利用した箇所は、建築後に別の用途に切り替えてはいけないことになっています。駐車場だったところを後日、コインランドリーにしてしまった事例を知っていますが、建築当時に利用した不算入措置が無効になってしまうため、その分の容積率緩和がなくなってしまいます。そうなれば、建築時には適法だった物件も容積率オーバーになってしまい、建物の資産価値が激減します。不算入措置について役所で確認できたあとは、該当箇所が届出の内容と齟齬がないか確認が必要です。

大規模・タワーマンションの緩和措置

ここでは規模の大きな建物で見る機会のあるものをいくつかご紹介します。そこまで頻繁に目にするものではないですが、都市部の大規模マンションやタワーマンションではよく用いられるものですので、そういった物件を扱う機会がある方であれば知っておいて損はありません。

総合設計制度

総合設計制度は、敷地が広いタワーマンションなどで見る機会が多い制度で、建築基準法では「敷地内に広い空地を有する建築物の容積率等の特例」と表記されていています。敷地の一部を「公開空地」といって周辺住民も出入りできるようなオープンスペースにして「周辺の環境向上に貢献する代わりに、特別に緩和措置を受けられる」という交換条件のような仕組みになっています。緩和可能なのは容積率・絶対高さ・斜線制限で、通常よりも大きく高さのある建物を建築できるようになります。

参考画像:公開空地の実例

役所調査においては、概要書があれば「総合設計制度」という表記があり確認できるはずです。仮に概要書がない場合にはここまでに出てきた緩和措置では説明のつかない容積率・高さだった場合に、制度利用を疑うことになりますが、現地に「公開空地」があるかなども判断材料になりますし、公開空地については分譲時のパンフレット管理規約に記載されている可能性が高いのでこうした資料も併せて確認すると良いでしょう。

※画像は概要書 第二面から一部を切り抜いたものです。

一団地認定

「総合設計制度」と呼ばれることがあり、1つ前の総合設計制度と非常に紛らわしいのですが異なる規定です。「団地」という文字列からイメージをふくらませるのが1番わかりやすいですね。広い敷地の中に複数の建物を建てるときに使う制度ですので、まさに団地や、複数棟あるような大規模マンションの建築時に用いられます。

通常、建築基準法では「1つの敷地には1つの建物」という原則がありますが、一団地認定を受けることで敷地内に複数の建物を建てることができるようになります。これにより広大だが1面しか接道していない土地などでも、道路から離れた位置に棟を配置できるようになったり、隣地との兼ね合いで影響を受ける斜線制限などもゆるくなったりと恩恵が大きいのです。

緩和できる制限は接道義務、建蔽率、容積率、日影規制等で、総合設計制度と同様に概要書や分譲時パンフレット、管理規約などから読み取ることができます。しかし、1つの敷地に複数棟あればすぐにわかると思いますので、比較的確認のしやすい制度です。

天空率による特例(建築基準法第56条第7項の規定)

天空率とは、平成15年に追加された制度で斜線制限の緩和措置です。言葉での説明がとにかく難しいので港区の資料をお借りします。

[参考画像:港区 高さに関するルール(道路斜線・天空率制度) ]

厳密に言うと若干違うのですがイメージとしては「決められた観測点から魚眼レンズで建物を見たときに、建物が画面上を専有している面積が、斜線制限を適用した建物(図 Ab1)よりも、狭い範囲で収まる建物(図 Ab2)であれば、斜線制限を無視していい」という制度です。

今までは斜線制限によって、どうしても建物の上部を斜めに切り落とす必要があることが多くありました。しかし天空率の採用により、斜線制限を無視して建築が可能になったので、図のように形の整った建物をより高く建てることができるようになりました。

冒頭に書いたように天空率は平成15年以降の建築物に活用されています。比較的新しい制度なため恐らく概要書の閲覧ができるはずで、確認に苦戦することはないでしょう。しかし「天空率」とは表記されず下記の図のように「建築基準法第56条第7項の規定による特例の有無」といったような記載になっていることが多いです。「56条7項=天空率」ということだけ覚えておくと概要書での確認がしやすくなります。

※画像は概要書 第二面から一部を切り抜いたものです。

監修者

宅地建物取引士
荒川 竜介

新卒から合計4年半不動産仲介の現場に従事。 その後、マンションリサーチ社の執行役員を経て、2018年12月にミカタ株式会社 代表に就任。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

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