都市計画法 – 役所調査マニュアル[実践編]

都市計画道路 等

都市計画道路については、入門編である程度説明をしていますが重要度が高いため詳しく解説します。まずは調査すべき項目を洗い出しておき、各項目の説明に移りたいと思います。

  • 調査対象地との位置関係(敷地内・隣接・近隣)
  • 計画決定の内容
    • 名称
    • 計画幅員
    • 計画決定年月日
    • 告示番号
  • 計画の進捗
    • 事業決定はしているか
    • 優先整備路線の指定はあるか
    • 終了予定日は決まっているか
    • 完了済か

監修者

宅地建物取引士・公取協認定不動産広告管理者
野村 道太郎

大手不動産会社、広告代理店を経て現在は『不動産会社のミカタ』 『役所調査のミカタ』の編集長を兼務。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

監修者

宅地建物取引士
公取協認定不動産広告管理者

野村 道太郎(プロフィール)

無料アプリで調査効率アップ & ぬけもれ防止

① 調査対象地との位置関係(敷地内・隣接・近隣)

調査対象の物件周辺に都市計画道路があった場合、まずは都市計画図で物件との位置関係を確認します。道路が敷地内にあるのか、接しているだけなのかなど、位置により調査すべき内容やどのように取り扱うかなどが変わってしまうためです。

以下3パターンのどれに該当するのか確認してください。

  1. 敷地内
  2. 隣接
  3. 近隣

① 敷地内」 は都市計画道路が敷地内を通ってしまっている状況です。この場合、都市計画道路の部分はいつか道路になる可能性があり、建築に制限がかかります。道路になってしまう部分とそうでない部分で、使い勝手が大きく変わりますので「どこからどこまでが都市計画道路なのか」という範囲の特定が非常に重要です。

厳密に調査をする場合、一般的な流れとしては調査対象である土地の形状・寸法・方位等を正確に表示した図(測量図等)を用意し、管轄する役所で都市計画道路の正確な位置を書き込んでもらうことで確認をします。ただ、手続きには必要書類などを準備しなければならず、申請してから回答が得られるまでに数日かかる場合が多いので、まずは①〜③のどれに該当するのか、大まかな位置の確認を優先しましょう。

ちなみに、比較的新しいマンションですと、「② 隣接」に該当するケースを見ることが増えるかもしれません。もともとが「① 敷地内」であっても、建築時点で様々なしがらみをなくすために道路部分を切り離してしまい、②の状況にしてから建築をすることがあるからです。②の場合は①よりも調査は楽になりますが、「本当に隣接しているだけか、敷地内に越境している可能性はないか?」というのは慎重に確認しなければなりません。

参考画像を1点用意しました。茶色い線が未完成の都市計画道路の計画線を示しています。赤い四角で囲われた範囲をご覧頂くと、きれいに計画線から逃げた位置に建物があることがわかります。逆に青い四角の範囲の建物には、計画線をまたいで建物が建っていますね。

参考画像:港区 都市計画図より抜粋 白金4丁目・2丁目周辺

この画像だけで判断すれば、恐らく青い四角の範囲の土地は「① 敷地内」に該当していそうです。敷地内のどこまでが都市計画道路なのか範囲の特定が必要になるでしょう。赤い四角の範囲に関しては、①か②だと思われますが、この画像だけでは判別できないので、法務局で取得できる測量図公図登記情報などの関連資料を収集して詳しく調べる必要があります。

また、比較的新しい物件であれば建築計画概要書という資料が残っているかもしれません。これは字面の通りの資料で、建築当時の土地の状況や、どんな建物を建てたのか、どんな法規制を受けたのかなど、建築計画の概要がまとめて記載されています。建築確認時に役所に提出された資料の写しであり、基本的には建築指導課で閲覧・取得ができるはずです。役所調査においてはかなり貢献度の高い資料なので、もし取得できそうであれば調査の早い段階で取得するようにしましょう。都市計画道路との位置関係についても、当時の状況が細かく記載されているかもしれません。

参考画像:建築計画概要書 一部抜粋

最後に「③ 近隣」については都市計画図の目視で確認できるはずなので特に注意点はありませんが、重説の作成時には大まかな位置関係を説明する必要がありますので、敷地からみた方角距離(例:南東側 約50m)は確認しておくようにしましょう。

位置関係のイメージ図

都市計画図がオンライン上で確認できる場合は、事務所で確認すれば問題ないですが、役所でしか確認できない場合は三角スケールという道具を用意しておいたほうがいいです。(三角スケールの使い方については、もっと詳しい諸先輩方の解説記事に譲りたいと思います。「三角スケール 使い方」で検索してみてください)

参考画像:三角スケール

ちなみにパソコン上で地図上の距離を測るには個人的には「Mapion キョリ測」というサイトが便利です。他にも類似サービスはありますので、ご自身でいくつか試してしっくりときたものをブックマークしておくと良いでしょう。

② 計画決定の内容

ここではまず用語の解説をしておきたいと思います。都市計画道路ができあがるまでにはいくつかの段階を経て計画が進んでいきます。

最初に「ここに幅員◯mの道路を作ろう」という大まかな計画が決まります。これを「計画決定」といい、次は工事の時期や規模・予算など、より具体的なことが決まっていく「事業決定」という段階を経てから工事が始まります。大まかにはこの2段階を理解できていれば問題ありません。ただ、念のためここでは細かく触れませんが一般的な流れも下記に記載しておきます。

都市計画道路が完成するまでの一般的な流れ

  1. 計画決定
  2. (優先整備路線への指定)
  3. 事業決定
  4. 用地収用
  5. 工事
  6. 完了・供用開始

実際にはそれぞれの段階の間に役所による調査や、周辺住民への説明会など、様々な手順が存在しています。しかし「役所調査をするうえで知っておいた方がいい」という範囲に絞ると、ひとまずは上記の6つを知っておけば問題ないでしょう。この6つの段階については次項の「計画の進捗」でもう少し触れますのでこの場では割愛します。

さて、都市計画道路がある以上は、少なくとも計画決定はしているはずです。したがって、重説で道路の概要を説明するために、計画決定の内容について下記情報を確認していきます。ちなみにこのあたりの情報から、恐らく都市計画図だけでは確認できないことが増え始めますので、不足する情報はどこで何を確認すべきか、各市区町村に確認する必要があります。

  • 名称
  • 計画幅員
  • 計画決定年月日
  • 告示番号

基本的にはこれらの情報がまとめて記載された資料があり、そのまま書き取るだけですので計画決定の内容に関する調査は難しくありません。

参考画像:港区都市計画概要 令和4年3月 P28より一部抜粋

名称は道路自体に「環状第◯号線」とか「補助線街路第◯号線」といった名称があるのでそれを確認します。
計画幅員は計画時点で定められた道路幅員です。注意点としては、区間の長い都市計画道路では場所によって幅員が異なる場合がありますので、そういった物件ではちゃんと物件周辺の幅員を確認しなければなりません。
計画決定年月日告示番号についてはほんとうに書き写すだけです。ただ、このあたりの調査からなんとなく都市計画道路の実態が見えてくるので少し触れておきましょう。

戦災復興~高度経済成長、都市計画道路の歴史

地域によってまちまちですが、都市計画道路の調査をしていくと昭和20年代〜40年代といった古い年代を見る機会がそれなりにあります。つまり「80年近く経ってなお、計画決定段階」という「じゃあ一体いつになったらできるんだ?」という御長寿さんがたくさん出てくるのです。

ちなみにこの年代が多いのはちゃんと理由があり、昭和20年に第二次世界大戦が終戦し、昭和30〜40年代は高度経済成長真っ只中、戦災復興や経済成長に伴って道路整備が爆発的に進んだ時代だったからです。

当時の日本は、諸外国からみると道路網のレベルが絶望的に低かったので、積極的に都市計画道路が作られていきました。しかし、計画した全てを一気に作ることはできません。そうこうしている間に高度経済成長によりどんどん住宅街が広がっていき、未着手の都市計画道路周辺にも住宅街はどんどん拡大していきました。道路予定地に家が建って人が住み始めてしまうと、立ち退き・買収をしなければ道路計画は進められません。膨大な手間・費用、つまり税金が必要です。しかも出来上がれば周辺の交通量は増えるので環境への悪影響を懸念し反対する住民も多いでしょう。いまやそう簡単に事業決定はできなくなりました。

ですので役所調査を繰り返していると「たぶんこれは完成しないだろうなー」という都市計画道路を目にする機会は少なくありません。都市計画道路の調査では「事業化する可能性はどの程度なのか?」という視点が重要です。それを読み解く上で「計画決定年月日」は大きなヒントの1つになりますので、覚えておきましょう。70年以上前の計画なのに、事業決定の目処が全くたっていないのであれば恐らくそう簡単には計画は進まないということが読み取れるのです。

ちなみに、告示番号の中には「戦復告第◯号」というものがあります。余談ですがこれは「戦災復興院告示」の略称ですので、まさに戦災復興計画だったことが読み取れる資料であったりします。

調査も重説も事実を積み上げていくのが大切
計画決定年月日の説明で「恐らくそう簡単には計画は進まない」という表現をしましたが、こういった推測を含む表現は実務においては不適切です。確実でない情報を顧客に渡すべきではないからです。したがって、顧客への説明時には推測部分は削除し、あくまで事実を伝えるようにしてください。慣れるまでは、下記のように事実を箇条書きにしながらまとめていくとよいでしょう。

 例
 ・物件の近隣で都市計画道路が計画決定している
 ・計画決定年月日が昭和20年代
 ・調査時点において計画決定以降の進捗はない

③ 計画の進捗

都市計画道路の調査において、物件との位置関係に次いで重要なのが「進捗」です。繰り返しにはなってしまいますが「事業化する可能性はどの程度なのか?」というのが重要なので、進捗を詳しく確認する必要があるのです。調べ方は先程ご紹介した6つの段階について、現状はどうなっているのかを確認してくことになります。

都市計画道路が完成するまでの一般的な流れ

  1. 計画決定
  2. (優先整備路線への指定)
  3. 事業決定
  4. 用地収用
  5. 工事
  6. 完了・供用開始

ここでの確認事項は以下の通りです。

  • 事業決定はしているか
  • 優先整備路線の指定はあるか
  • 終了予定日は決まっているか
  • 完了済か

ひとまず最優先で「事業決定はしているか」を確認してください。決定していれば、事業期間の長短はあれど近い将来道路になる可能性が非常に高いです。計画決定と同様に「決定年月日」「告示番号」があるはずなので併せて確認をしておきます。

また、管轄の窓口で確認をしていく中で、担当者からより詳しい近況を聞ける場合があります。「事業決定はしているものの一部区間の買収が難航しており、進捗が遅れている。恐らく延期になるだろう。」といった話を聞けることがありますので、念のため全て記録しておき、さらに聴き取りを行った窓口の名称日時担当者名まで控えておけば万全でしょう。

続いて「優先整備路線の指定はあるか」を確認します。これは「この道路は◯年までに優先的に計画を進めたい」といったように、事業決定とは別に整備する優先度の高い道路を役所側が指定する制度です。指定を受けている場合、仮に事業決定されておらず、計画決定のみの状態であっても近い将来に事業化する可能性が高い路線になりますので、注意が必要になります。

次は「終了予定日は決まっているか」の確認です。これは基本的に事業決定している場合に、事業の終了予定日が定まっていれば確認をします。ちなみに日付の確認と同時に、できれば「順調か、押しているか」といった進捗も確認しておきたいところです。状況を把握している担当者を捕まえるのが中々難しいことも多いのですが、都市計画道路の整備はなかなか順調に進まないことも多いです。「工事期間が延期する可能性」というのは購入検討者にとっては知りたい情報になるはずですので、できる限り情報収集に努めます。

[参考画像:用地収用が進行しているものの未完成の都市計画道路]

画像のような柵に囲まれた土地を見たことがある人も多いのではないでしょうか。これはまさに都市計画道路で事業決定後に用地収用(役所が道路用地などを買収すること)が進んだ結果です。柵で囲まれたところはすでに収用済ですが、工事区間すべての収用が完了するまでは原則着工ができないので、このように道路予定地として保全されています。

最後は「完了済か」という点です。「都市計画図上では都市計画道路があるので調査をしたが既に整備完了していた」というケースは少なくありません。これについてはわざわざ「完了しているかを調べる」というよりも、ここまでの確認事項を調べる中で「調べたら完了していた」というようなことのほうが多いと思います。もし完了済だったら、その都市計画道路の整備を理由に環境が変化するリスクがなくなるので、その旨を購入検討者に対して伝えたほうが良いでしょう。

【補足】その他の都市計画施設

都市計画施設は道路だけではありません。公園や下水道、高速道路なども都市計画によって整備される場合がありますので、都市計画図等でしっかりと確認しましょう。とは言え、道路より見る機会が少ないですし、基本的な調査方法は道路と共通していますので特に個別の解説はせずにおきたいと思います。

無料アプリで調査効率アップ & ぬけもれ防止

監修者

宅地建物取引士・公取協認定不動産広告管理者
野村 道太郎

大手不動産会社、不動産専門 広告代理店を経て現在は『不動産会社のミカタ』『役所調査のミカタ』の編集長を兼務。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

※実績等:初心者向けセミナー「よくわかる役所調査」受講者アンケート結果:満足度96.3%、全国3,000社が利用した「役所調査チェックシート」企画・制作、業務効率化ツール「スマホで役所調査メモ」企画・設計・監修 など

1 2 3 4