都市計画法、建築基準法以外の法令 – 役所調査マニュアル[実践編]

最大の山場である建築基準法がようやく終わり、ここからは都市計画法・建築基準法以外の法令についての解説です。「以外の法令」というまとめ方がなんとも大雑把な感じがありますが、ここで解説可能な法令というとそれはもうとんでもない量になります。入門編でお見せした図を再度お出ししておきましょう。

実はこの図でも全てを網羅している訳ではないのですが、記載された61項目だけでも全てを解説してしまうといつまでもマニュアルを完成させることができなさそうです・・・。そして恐らく書き上げても読まれない部分が大半ではないかとも思います。ですのでやはり事例数の多い法令に絞り込み、以下の5つを解説していきたいと思います。

  • 土地区画整理法
  • 公有地拡大推進法 & 国土利用計画法
  • 農地法
  • 宅地造成及び特定盛土等規制法
  • 文化財保護法

監修者

宅地建物取引士
荒川 竜介

新卒から合計4年半不動産仲介の現場に従事。 その後、マンションリサーチ社の執行役員を経て、2018年12月にミカタ株式会社 代表に就任。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

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宅地建物取引士

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土地区画整理法

まずは都市計画法の市街地開発事業の解説の中でさらりと登場していた土地区画整理法です。
ざっくりと言えば、道や土地の境界線が入り組んでいて雑然とした市街地をきれいに整えるために実施される土地区画整理事業について定めた法律で、住み心地や利便性の向上を図ることを目的としています。

雑然とした町並み
区画整理により整然とした町並み

土地区画整理法は出てくる用語が多くとっつきづらい印象を持つ方が多いと思いますが、全体を俯瞰して「何がどうややこしいのか」を知ったうえで紐解いていくと理解がしやすくなります。図をご用意しましたので、まずは図の右側に記載した全体的な流れ・用語をさらりとご覧ください。

参考画像:土地区画整理事業の全体像

「仮換地」や「保留地」などあまり見慣れない用語が多く、苦手意識を持っている方は多いのではないでしょうか。しかも、土地区画整理のややこしいポイントは他にもあり、進捗状況によって変化していく「土地の権利関係」と「建築制限」が、次の段感に進むタイミングが揃っていないことで一気に混乱される方が多いようです。なので、土地区画整理法は3層構造として捉えて、以下の順番で全体像の把握をしていくのがおすすめです。

  • 全体の流れ、用語の理解
  • 土地の権利関係
  • 建築制限

①全体の流れ、用語の理解

土地区画整理事業は、都市計画法で定める市街地開発事業の一種です。つまりスタートは都市計画道路と同様に「計画決定」から始まります。ただその段階ではまだ大まかな計画があるだけで具体化はしてません。

次の段階としては事業主体となる施行者を決める必要があります。施行者は、区域内の地権者たちが組合を作る等「民間主導」となる場合もあれば、市区町村や都道府県等「行政主導」になる場合など様々なパターンがあります。それぞれのパターンによって若干手続きの流れや名称が変わるのですが、基本的には先述の地権者が組合を設立するケースが多いようです。この組合が設立し認可された時点で「組合設立認可の公告」がなされ次の段階に移っていきます。

施行者が決まったら次は換地計画の作成です。ここからは関連用語が多いので順を追って紹介させてください。

減歩(ゲンブ)

土地区画整理事業は「雑然とした市街地をきれいに整える」とお伝えしましたが、最も重要なのは計画的な道路網の整備でしょう。細く曲がりくねったような道ばかりだった地域を一旦リセットし、碁盤の目のように整然と道路を通すことができれば、土地の形状や接道状況などが区画整理前よりも改善され、区画全域で土地の価値向上が期待できます。

しかし、区画整理にはいくつかのデメリットも存在しており、その代表例として挙げられるのが「減歩」です。区画整理の中では道路を始めとして公園などの公共施設も開発していくのですが、何を作るにしても土地が必要です。この用地を捻出するために実施されるのが減歩で、区域内の地権者から一定の割合で土地を無償提供してもらって余白を作り出し、道路等の用地に割り当てていきます。

参考画像:国土交通省 都市局 市街地整備課「土地区画整理事業とは」

なお、減歩によってできた余白は公共施設だけでなく「保留地」という区画を捻出するのにも用いられます。保留地は第三者に売却され事業費を捻出する枠割を担っています。

土地区画整理は減歩により土地面積が減ってしまうデメリットはあるものの、地域一帯が整然と整備され接道条件も改善することで土地の価値は上がりますし、道路網が整うということは上下水道等のインフラも整うことになります。将来的な維持管理や資産性を思えば、基本的には恩恵が大きい事業だと言われています。

換地と仮換地

土地区画整理では、進捗に応じて土地の形状や権利関係が徐々に変化していきます。まず、事業の施行前から地権者が持っていた土地を「従前の土地」、事業完了後に手に入る新しい土地は「換地」といいます。

理想を言えばサクッと工事が終わり、サクッと「従前の土地」が「換地」に切り替われば制度もシンプルになっていいのですが、現実はそうもいきません。基本的に土地区画整理事業は、場合によっては何十年というかなりの時間を要する大事業です。最終的に土地が換地に切り替わるまでには様々な手順が存在しているので、いきなり切り替わるのではなく一旦は「仮換地」という暫定的な状態におかれることがほとんどです。なお、将来的に仮換地はそのまま換地になるのが原則です。

清算金

換地計画ではここまでに挙がった「減歩はどのくらい必要か?」「公共施設・保留地の確保はどうする」「換地の割り当ては?」といったことを決めていった最後には「清算金」を定めます。

換地はなるべく不公平のないよう割り当てを行いますが物理的な制約がある以上、完璧に平等な割り当ては不可能と言っていいでしょう。形状や位置関係等について、従前の土地と換地の間に差ができてしまうことはあり、そうした場合に差を金銭的に解決するのが清算金です。従前の土地よりも条件が悪くなってしまう場合には清算金を交付しますし、良くなる場合には徴収して不均衡を是正します。

なぜ土地区画整理は何十年もかかるのか?

都市計画道路も非常に大掛かりで時間のかかるものでしたが、土地区画整理もそれに匹敵するくらい、場合によってはもっと困難な道のりになることもあるようです。というのも、都市計画道路が難航する場合は「土地を道路に取られたくない」「環境の悪化が懸念される」といったように反対派が何かしらの負担を強いられることに反感を抱いている状況といえます。

対して、土地区画整理ですと減歩等の負担だけでなく、新しく手に入る土地、つまり利益も分配しなければなりません。同じ区域内であってもどうしても換地ごとに条件には差ができてしまいますので、「向こうの換地のほうがいい」であるとか「公園との位置関係が気に食わない」「なぜあの人のほうが優遇されるのか」といった不平不満が噴出しやすいのも難易度を高める要因となるようです。心理学でも「自分が損をしてでも相手が得をするのを阻止しようとする」という人は一定数いると言われています(ご興味のある方は「スパイト行動」でお調べください)。なるべく不公平のないように調整し、全ての地権者から負担についても利益についても納得を得るというのは、とんでもない根気がいる事業なのです。

さらにいうと換地の割り当て後には、既存の雑然とした町並みをリセットするために建築物の移転除却をしなければなりません。つまり、住んでいた方々には立ち退いてもらわねばならないのです。工事着手の数年前から説明会が実施されたり、移転時期や補償内容といった立ち退き条件の交渉がなされるなど、多くの手順が必要になります。土地区画整理を進めるためには、一筋縄ではいかないハードな交渉事が盛り沢山なのです。何十年もかかってしまう大事業になるのも無理からぬことでしょう。

※立ち退き交渉についてはこの場では詳細は省きますが、念のため下記に参考サイトを記載します。

東京都 都市整備局『土地区画整理事業における移転・補償について ― 1.移転・補償の流れ
(参照日 2023年6月5日)

仮換地の指定

さて、無事に換地計画も定まり立ち退き交渉も進んだら、ようやく本格的な工事に着手していくことになります。まずは建築物の移転除却を済ませ、次に道路等の公共施設を整備します。そして道路・上下水道などのインフラが整ったタイミングで「仮換地の指定」を行い、地権者に対し仮換地の位置や面積等の詳細を「仮換地指定証明書」などの書面で通知します。

参考画像:区画整理の最中、道路や電線等のインフラはできあがってきている状態

地権者は仮換地の指定がされたら、自身の仮換地に自宅を建てるなど使用収益が可能になります。仮換地は原則そのまま換地になりますし、土地の位置や面積・形状も確定していますから「建物を建築する準備は整った」と言えるのがこの段階でしょう。

換地処分

施行区域内の全ての区画について工事が完了し、清算金の計算も終わったら次は換地処分です。地権者へ改めて換地の詳細や清算金の明細等を通知し、同時に都道府県知事への届け出も行います。届け出を受けた知事は遅滞なく換地処分があった旨を公告しなければなりません。そして公告の翌日は節目で、まず仮換地は正式に換地になりますし、清算金の交付・徴収も公告の翌日から実施されます。

さらに、従前の宅地にあった登記を全て換地に移すのもこのタイミングです。登記の件数が膨大になりますので換地処分に伴う移転登記は、まずは地域全体の登記簿を閉鎖してまとめて作業を進めます。閉鎖期間は規模によってまちまちですが数ヶ月はかかり、閉鎖期間中は抵当権設定など新たな登記は一切できなくなります。この期間内は、売買やローンの借り入れ等は難しくなりますので注意しましょう。

以上が土地区画整理事業の流れです。いくつかの用語と流れ、それぞれの節目で起きる出来事を把握しておきましょう。

② 土地の権利関係

さて土地区画整理法は関連用語の多さもさることながら、進捗状況によって変化していく「土地の権利関係」と「建築制限」が噛み合っていないことも厄介だとお伝えしていました。なので弊社では、あえてバラバラに切り分けて理解していくのを推奨しています。まずは土地の権利関係です。冒頭の図を少し改変し再掲します。

土地区画整理事業の中ではチェックポイントが2つあり、それぞれのタイミングで土地の権利関係に変化が生じます。

  • 仮換地の指定
  • 換地処分の公告

まず、元からあった従前の土地は単純に「一般的な所有権を有している」だけであり、何も特殊なことはありません。しかし「仮換地の指定」がされることで状況が変わります。所有権は従前の土地に残ったままですが、使用収益する権利だけが仮換地に移動し、従前の土地は使えなくなってしまうのです。

仮換地の整備まで終わっていれば、物理的には従前の土地はその位置・形状を残しておらず、見た目は既に仮換地になっているはずです。その状態で「元々はここまで自分の土地だった!」などと古い土地境界を認めてしまうと、区画整理した意味が全くありません。「整然とした町並みになった以上、新しくきれいな街区で「自身に割り当てられた範囲だけを使いましょう」というだけのことです。

ただ、換地処分を経てまとめて登記されるまでは所有権を移転させられませんので、登記簿上は従前の土地のままにしておくしかありません。しかし「換地処分の公告」がなされれば、仮換地は正式に換地となり所有権は従前の土地から換地へ移動しますので、換地は「使用収益する権利」も「所有権」も備えることになります。こうして換地に「一般的な所有権」が整うことで土地の権利関係もきれいに区画整理を完了することになります。

③ 建築制限

次は「建築制限」についてです。今回もイメージをつけやすいよう図を少し改変し再掲します。

建築制限については段階によって2パターン存在しており、チェックポイントは3つです。

  • 都市計画決定
  • 施行者認可等の公告(事業決定)
  • 換地処分の公告(事業完了)

土地区画整理事業は、都市計画法に定める市街地開発事業の一種でした。なので事業のスタートは都市計画道路などと同様に計画決定です。ですので計画決定後は、都市計画道路の区域内に土地がある場合に受ける制限と全く同じ「都市計画法 第53条」による建築制限を受けることになります。建築制限の内容は、下記より重説への記載例をご覧ください。

次のチェックポイントは施行者認可等の公告です。この時点で事業決定の段階へ移りますので、建築制限も計画決定の区域に対するものより厳しくなります。ちなみにこの段階では、都市計画法でなく「土地区画整理法 第76条」による制限を受けることになります。※制限の内容は下記参照

事業決定されてから事業が完了するまでは、継続して76条の制限が適用されますが換地処分の公告をもって事業完了となり、仮換地は換地に、つまり一般的な土地になります。この時点で土地区画整理法による制限から開放され、以降は通常の土地として取引ができるようになるのです。

用語が多く土地の権利関係と建築制限が異なるタイミングで変化していく土地区画整理事業。改めて整理し明文化してみるとその複雑さを痛感します。一旦ここまでで全体像の解説はできているので、冒頭の図を再掲しておきたいと思います。

参考画像:土地区画整理事業の全体像

調査方法と確認すべき項目

ここまでの解説を踏まえ、調査対象地が土地区画整理事業の区域内だった場合の調査方法と調査項目をお伝えしたいと思います。まずは調査方法ですがそもそも「対象地が区域内か?」という点については、恐らく都市計画図の閲覧時など「役所調査を進める流れの中で気付く」というのが通常だと思います。わざわざ「土地区画整理事業に該当していないか?!」と確認するようなことは考えにくいでしょう。したがって、調査のスタートラインは「対象地が区域内だったら次は何を調べるのか?」だと思われます。

まず確認すべきは事業の進捗です。進捗次第で調査先も調査項目も分岐しますから優先度が高く、特に以下3つのチェックポイントを通過しているかどうかが重要です。

  • 施行者認可等の公告
  • 仮換地の指定
  • 換地処分の公告

①を通過していなければ、計画決定しかしておらず「まだ施行者はいない」という状況なので市区町村の都市計画を管轄する窓口で必要な情報の確認はできることがほとんどでしょう。事業の初期段階なので調査項目も少なく済みます。

  • 調査項目:施行者認可等の公告
    • 名称
    • 施行者認可や事業決定等、事業が進む目処がたっていればその時期・状況
    • 案内資料があれば取得

しかし、既に①を通過済であれば「施行者が決まっている」ので、それ以降の調査は基本的に施行者の窓口へ行かなければなりません。施行者の概要調査先の窓口を確認してください。調査先が確認できたら以下の内容について確認を進めていきます。

  • 調査項目:施行者認可等の公告
    • 名称
    • 仮換地の指定は済んでいるか?
      • 街区番号等
      • 仮換地図、仮換地証明書等の資料を取得
    • 換地処分の公告は済んでいるか?
      • 公告の年月日
      • 清算金の有無、徴収か交付か
    • 組合の財政状況、賦課金を徴収される可能性はあるか?
    • 案内資料があれば取得

これまでの解説で、事業全体の流れや土地の権利関係の変動、建築制限についてなどが把握できていれば余り難しく考える必要はありません。「今はどこまで進んでいるのか?」を軸に枝葉の情報を集めていけば調査は完了できます。最後に経験上、慎重に調査すべきポイントを補足して土地区画整理の単元を終えたいと思います。

揉めやすさNo.1「清算金 & 賦課金」

個人的に土地区画整理事業で一番恐いのは清算金と賦課金です。というのも、徴収額がかなり高額になってしまうようなこともあり、過去には売買取引後に確定した清算金があまりに高額で裁判に至ったような事例も存在しています。

特にバブル期に換地計画ができた事業は注意が必要です。当時、地価は「上がるもの」でしたから減歩や保留地の確保が多少楽観的になっても仕方のない状況でした。しかし、バブルは崩壊し地価は思うように上がらず、少子高齢化・人口減少の影響もあり住宅地は供給過多になるなど、状況は厳しくなっていきます。そんなこんなで保留地が期待していたほどの財源にならず、財政が逼迫している土地区画整理事業が実在しているのです。

土地区画整理法では財源が不足する場合には組合員から賦課金を徴収することを認めています。区域内の土地を所有していることを理由に、区画整理の事業費を徴収される可能性がありますので、賦課金の調査時は「有無が決まっているか?」だけでなく、「組合の財政は逼迫していないか?」「徴収される可能性はあるか?」まで踏み込んで調査しておいたほうが良いでしょう。

※以下より「財政が逼迫している場合」の例文も含む土地区画整理法に関連した重説の記載例を閲覧可能です。

公有地拡大推進法

公有地拡大推進法とは、都市計画道路を筆頭とする公共事業の用地取得を推進するための法律で正式名称は「公有地の拡大の推進に関する法律」といい公拡法と略すこともあります。

「都市計画道路の区域内で一定以上の規模の土地」など、条件に合致する土地を売買しようとする場合に、取引前に都道府県知事へ届け出ることを義務付けています。具体的に届出が必要な条件の代表例を以下に列挙しておきましょう。

  • 200㎡以上 & 土地の一部だけでも都市計画施設に被っている
    ※地域によって50㎡以上の場合もある
  • 5,000㎡以上 & 市街化区域
  • 10,000㎡以上 & 市街化調整区域または非線引き区域 など

これらに合致する場合、売主は事前に取引額等を届出なければならず、届出を受けた行政側は「この土地を買い取れるか、売主と協議したい地方公共団体いる?!」と希望者を募ります。この募集は3週間以内という期限付きで、希望者の有無に関わらず結果が通知されますが、通知がくるまでは地方公共団体以外の第三者には売却できませんので注意が必要です。また、もし結果が「協議の希望者あり」だった場合には、この売却できない期間はさらに延長されます。「希望者ありの通知から3週間を経過する」か「協議の不成立が明らかになる」までのいずれかが新たな期限となりますので、届出から最長6週間は売却できない期間が生じる可能性があります。

ちなみに、協議を理由なく拒否することはできませんが、公拡法には売却を強制する力まではありません。協議の結果として「売らない!」という選択は問題ないとされています。

※以下より公拡法に該当した場合の重説への記載例をご覧頂けます。

国土利用計画法

公拡法によく似た法律に国土利用計画法(略称:国土法)というものがあり、公拡法とは立法趣旨が異なるものの制限が似ているので同時に覚えておくのを推奨しています。

国土法には「投機的取引による価格高騰を防ぐ」「国土を適正かつ合理的に利用する」といった意図がありますが、役所調査・重説作成で関係するのは主に前者です。公拡法と同じように取引対象の土地が一定以上の規模だった場合に、届出を義務付けているので対象地が該当するのか注意しておく必要があります。なお、具体的な規制対象は以下のとおりです。

  • 2,000㎡以上 & 市街化区域
  • 5,000㎡以上 & 市街化調整区域または非線引き区域
  • 10,000㎡以上 & 都市計画区域外

※一筆だけでは対象面積未満でも、取引対象の合計が対象面積を超えれば届出が必要です。

対象地が上記のいずれかに該当した場合には「契約締結日を含めて2週間以内に、市町村長を経由して都道府県知事へ届出」が必要になります。これを国土法における事後届出制と呼び、届出がされた土地は利用目的を審査されます。ちなみに審査の結果として取引が無効になるような強制力はありませんが、助言や公表措置を受ける可能性はあります。

ここまでの説明は、実は国土法の一部のみを解説しており厳密には網羅できていない部分があります。が、実務で必要な範囲に限れば十分説明ができていますので、以下に記載する解説は読み飛ばしても問題ありません。

ここまでは「事後届出制」のみに触れていましたが、国土法では土地取引に対する規制が厳密にはあと3種類存在しています。しかし、残りの3種のうち2種は対象となるエリアが存在せず、最後の1種も執筆時点では東京都小笠原村の一部のみが指定されており、それ以外の地域には適用されません。小笠原の土地を扱わない限り必要のない知識ということになります。

どういったものかだけさらりとお伝えしておきますが、実は国土法では区域区分のように国土を以下4種に分類しています。

  • 規制区域(許可制)
  • 監視区域(事前届出制)
  • 注視区域(事前届出制)
  • 指定なし(事後届出制)

①の規制が最も厳しく、順に緩くなっていくイメージです。詳細は省きますが、これらの区域に指定されると土地の取引が容易にできなくなりますので、健全な土地の流通を阻害しないよう積極的には指定されてきませんでした。実際に は今までに指定された実績がありません。

②については、バブルの地価高騰対策に創設された経緯がありますので、90年代にはそれなりに広範囲が指定されていましたが現在では小笠原村のみを残して解除されています。小笠原村の都市計画区域内(父島・母島の本島)で500㎡以上の土地を取引する場合には事前に都道府県知事に届出を行わなければならず、利用目的・取引価格が著しく適正を欠く場合には取引の中止や変更を勧告される可能性があります。

そして、①~③の指定を受けていないエリア、つまりは小笠原村以外の全地域は④の「指定なし」という扱いになり、先述の事後届出制の規制対象となっています。

参考サイト:国土交通省『土地取引規制制度』(参照日 2023年6月8日)

ちなみに、宅建のテキストを見ていくと「国土法の事前届出を行う場合、公拡法の届出は不要」という記載を見ることがありますが、現時点で言えば小笠原のみで適用されるルールなので、覚えておく必要性は薄いでしょう。

農地法

農地法は農業の保全・振興を目的とした法律で、不動産の実務に関連するところでは以下2つの考え方が重要になります。

  • 良い農地は農家が所有し農業するべし
  • 農地は安易に農地以外に変えたらダメ

実務ではこれらの意図を反映した3条~5条で定める許可制度を理解しておく必要がありますので、まずはそれぞれの概要を整理してみましょう。

第3条
 視点:①良い農地は農家が所有し農業するべし
 制限:農地の権利移転等 (※) には許可が必要

※権利移転等…所有権の移転はもちろん、地上権や賃借権等の権利設定も制限の対象です。

第4条
 意図:②農地は安易に農地以外に変えたらダメ
 制限:農地を農地以外(宅地など)に転用するには許可が必要

第5条
 意図:① + ②
 制限:農地を転用目的で権利移転等するには許可が必要

イメージを掴むことを優先して少し乱暴な言い換えをしますが、第3条では「せっかくの優良な農地、ちゃんと農業をやってくれる人以外に売ってしまったら農業が廃れる!」という危機感から許可制を定めています。想定している取引の要素だけを抜き出せば「農地のまま、農家に売る」であり、取引後も農業を継続することを前提にしています。ここで主に審議されるのは移転後も問題なく農業を継続できるのかという、買主側の農家パワーとでもいいましょうか、農地法の条文内でも農機具の所有状況や農作業に従事する人数までもが検討材料に挙げられています。

対して第4条は「農地を農地以外にしたい場合、許可制にしておかないと優良な農地が知らぬ間に減ってしまうかもしれない!」という考えですね。「農家が所有したまま、他の用途に転用する」のを認めるか否かを許可制にしており、実は第3条の後詰めのような重要な役割も担っていたりします。

というのも、仮に第4条がなければ「まずは農地を転用してしまえばいい!農地じゃなくなれば第3条に関係なく農家以外に売れるぞ!」という抜け道が残ってしまいますから、先に塞いでおかねば貪欲な不動産会社さんがその道をフルアクセルで駆け抜けてしまうでしょう。第3条の許可にあたっては主に買主の適格性(農家パワー)が問われましたが、第4条の場合は土地の農地パワーが問われます。ざっくり言えば、農業委員会としては優良農地は農地として残しておきたいので許可が出にくいといったイメージです。

最後に第5条は「農地を農地以外にして、誰かに売る」であり、よくあるケースとしては不動産会社が農地を開発・転売目的で買い取るような場合には第5条による許可が必要です。転用と権利移転が同時に行われますが、転用によって農地ではなくなりますから買主の農家パワーは不要であり、「農地以外への転用を認めるか」という農地パワーが重要になる点で第3条よりは第4条に性格の近しい制限と言えるでしょう。

なお、第4条と第5条で問題にしている「転用」については「市街化区域内であれば許可までは不要、届出だけでいい」という例外規定が存在しています。市街化区域内はそもそもに「市街化すべき」なのですから、農地を宅地に転用するのは歓迎されており、許可が出ないことはなく届け出れば受理されます。したがって、市街化区域内であれば第4条・第5条はいずれも「許可不要、届出のみで取引可」となりますが、「届出すれば即取引OK」ではなく、届出後に農業委員会が発行する「受理通知書」「受理証」といった書類が必要になる点は注意が必要です。

ちなみに、農業委員会から各種許可を取りたい場合や、届出の受理通知書を取得したい場合には、農業委員会による審議の頻度には気をつけたほうが良いでしょう。仮に「審議は月に1回」という地域であれば、当月の提出期限を過ぎていると「翌月の審議まで待たなければ許可が出ない」ということになります。うまくいったとしてもそれなりに時間のかかる手続きですので、早め早めの確認・準備が大切です。

その他、よく挙げられる注意点として「農地かどうか」つまり「農地法の規制対象となるか」は農業委員会によって判断されます。そしてこれは登記上の地目で判断されるわけではありません。もちろん地目が「田」や「畑」であれば農地の可能性が高まりますので、農業委員会への確認は必須になるでしょう。しかしながら、地目が農地でないとしても、実態が農地であれば規制対象になる可能性があります。地目だけで判断せず、怪しい場合には早めに農業委員会へ確認するようにしてください。

また、調べた結果として「地目は農地のままだが、農地法の転用手続きは完了している」という事例はよくあります。転用手続き後に地目変更の登記をしなかったのでしょう。この場合、農地法による制限は受けませんのでさらに調べることはありませんが、そのままにしておくのもあまり良くはないでしょうから地目変更の登記を所有者に提案してもいいかもしれません。

調査時に確認すべき項目

最後にここまでの内容を踏まえ、役所調査時の確認項目をまとめておきます。

  • 対象地は農地法の対象となる農地か?(登記上の地目だけでは判断できない)
  • 今回の取引において必要な手続きの段取り、必要書類等
  • 必要書類の提出に締切があればその時期
  • 農業委員会の審議の時期

※以下より農地法に該当した場合の重説への記載例をご覧頂けます。

宅地造成及び特定盛土等規制法

(令和6年7月11日 追記修正)

こちらの法律は法改正により2023年5月26日から名称が変わりましたが、旧名称である「宅地造成等規制法(宅造法)」のほうが馴染みがある方がほとんどかと思います。もともとは宅地造成を起因とした土砂災害を防止するために、起伏の激しい地域を中心に新たな宅地造成を規制する「宅地造成工事規制区域」について定めた法律でした。当初の施行は1962年と歴史が古く、規制区域は全国的に指定されています。

その後、兵庫県南部地震や新潟県中越地震の被害をきっかけとして2006年に一度改正され、既存の造成宅地で崩落等の危険があるエリアに対し、知事が勧告や命令ができるようにする「造成宅地防災区域」が新設されています。防災区域は規制区域ほどには指定されておらず執筆時点では、北海道安平町、宇都宮市、山口県宇部市、熊本県西原村雀塚地区に指定されているのみという状況です。(2024年7月11日)

そして直近の改正です。通称「盛土規制法」と呼ばれており、名前の通り盛土の危険性を強く意識しています。改正のきっかけとなったのは、2021年に静岡県熱海市伊豆山で起きた大規模な土石流災害で、当時のニュース映像を思い出せる方も多いのではないでしょうか。被害地域の上流山間部に人為的に作られた盛土が原因となり実に98棟(※)もの住宅が被害に遭いました。熱海の土石流は、これまでの盛土に対する規制が不十分であったことを物語っており、第二第三の被害を防止するべく今回の法改正に至っています。

※出典元:国土交通省他『盛土規制法パンフレット』参照日2023/6/13

盛土規制法では、不適切な盛土が行われた場合に市街地に危害を及ぼしうる範囲を「特定盛土等規制区域」に指定することで、全国一律の基準で危険な盛土を規制できるようにしています。具体的な制限の内容としては、新たな盛土は許可制としたり、不正な盛土が見つかりやすくなる措置や維持管理等への基準を設けるなど、完成後の安全管理も強く意識した内容になっているのが特徴と言えるでしょう。

参考画像:国土交通省他『盛土規制法パンフレット』P2- 規制区域のイメージ

さらに、旧法では宅地造成工事規制区域だったものが、改正法では「宅地造成工事規制区域」という名称に変更され、指定範囲が大幅に拡大されていることには注意が必要です。名称はさらりと「」の一文字が増えただけですが、指定範囲は段違いに広くなっています。これは実際の区域図を見ていただいたほうがわかりやすいでしょう。東京都の新旧の区域図で比較したいと思います。1枚目が宅造法による宅地造成工事規制区域の規制区域、2枚目が盛土法による規制区域です。

東京都都市整備局『宅地造成工事規制区域』より抜粋
東京都都市整備局『盛土規制法に基づく規制』より抜粋

1枚目では都内の一部にのみ区域指定があったものが、2枚目ではほぼ全域が着色されており、規制区域が大幅に拡大されていることは一目瞭然かと思います。宅造法では宅地造成をきっかけとした土砂災害を懸念して、傾斜地・崖線等を中心に区域指定がなされたのに対し、盛土法では「市街地や集落、その周辺など、盛土等が行われれば人家等に危害を及ぼしうるエリア」を宅地造成等工事規制区域としたため、都内ではほぼ全域が規制区域になりました。

今回は東京都の指定状況を例示しましたが、全国的に規制区域は大幅に拡大することが予想されますので、新たに盛土法の運用が開始される地域におかれましては区域変更に十分注意が必要です。なお、東京都では令和6年7月31日より盛土法の運用が開始されますが、地域によって宅造法から盛土法への移行時期には差がありますので、区域指定の状況、移行時期、経過措置等については担当される地域によって随時ご確認をお願いいたします。

調査方法と確認すべき項目

調査自体はかなりシンプルで、ここまでに挙がった各区域について指定されているかどうかを確認してください。とはいえ「造成宅地防災区域」は全国的にもごく一部にしか存在しませんので、主には旧法の「宅地造成工事規制区域」と、新法の「宅地造成等工事規制区域・特定盛土等規制区域」について指定されているかどうかを気にすることになると思います。

  • 宅地造成工事規制区域(旧法)
  • 造成宅地防災区域
  • 宅地造成工事規制区域(新法)
  • 特定盛土等規制区域

確認方法としては指定区域がある場合には都市計画図上に反映されていることが多いので「都市計画図の閲覧時に気付く」というのが主な調査方法になります。しかし、旧法から新法への移行期間である現在は、まずは「対象地域における制度の移行状況」を確認したほうがよいでしょう。

まだ旧法のままであれば、そもそもが崖崩れや土砂災害に関連した規制ですから「現地が起伏の激しい地域だったら指定の有無を疑う」という考え方になりますが、新法の運用が始まっているのであれば「市街地であれば規制区域になりそうだ」ということになるでしょう。法改正の真っ只中の調査は少し大変ではありますが、防災に関連する話題は注目度の高いところですので慎重に状況確認に努めていただければ幸いです。

※以下より宅地造成及び特定盛土等規制法に該当した場合の重説への記載例をご覧頂けます。

土砂災害に関連するその他の法令

ちなみに土砂災害に関連する法律というとまだまだあり、それぞれの役割を細かく理解している人は実は少ないかもしれません。ここではそれぞれに細かくは触れませんが、大枠だけ解説しておきます。まず、規制する対象によって下記のように大きく2つのグループに分かれています。

  • 被害を受ける地域に対する規制
    • 土砂災害防止法(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)
  • 災害の発生源となる傾斜地等に対する規制
    • 砂防法
    • 地すべり等防止法
    • 急傾斜地法(急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律)

前者の「被害を受ける地域に対する規制」は土砂災害が発生した場合に、その土砂等が流れ込んで被害を受けるエリアに対して規制を設けています。土砂災害防止法では、特に危ない場所にある建築物に対して移転の勧告まで可能であったり、災害対策を備えた構造を指定するなど「災害が起きてしまった場合にも被害が少なく済むように」という考え方が根底にあります。

一方で後者の発生源に対する規制は、災害の原因となる傾斜地や崖などに対する災害リスクが上がるような行為を制限したり、逆に災害リスクが下がるような対策を義務付けるなど、「そもそも災害が発生しないように」という考え方が基本となります。ちなみに記載の3つをまとめて「砂防三法」「土砂三法」などと呼ぶことも多いので覚えておくと良いでしょう。

少し話がそれますが一言で土砂災害といっても、実は大きくわけて3種類の災害が存在しています。詳しくは東京都建設局のHPがわかりやすいのでご参照いただければと思いますが、土砂と水が混ざりあったドロドロとした状態のものが谷や河川を一気に流れ出てくる「土石流」、比較的ゆるい傾斜地である程度広い範囲の地面がそのままズルリと滑り落ちていく「地すべり」、切り立った崖が崩壊して一気に崩れ落ちてくる「がけ崩れ」の3種です。

そして砂防三法はこの土砂災害3種の原因に対応しています。砂防法は主に土石流対策、地すべり等対策法はそのままですね、急傾斜地法はがけ崩れに対して対策を講じる目的を持っています。こうして整理すると、非常に似た法律も「なぜ存在しているのか?」「その役割は?」といった全体像が掴めて理解しやすいかと思います。

文化財保護法

「都市計画法、建築基準法以外の法令」としてご紹介している中で、個人的に最も調査機会が多いのはこの文化財保護法でした。「土地区画整理法」以降に紹介した法令については「該当していたら調べる」といったように、調査の起点が受け身なものが続いていましたが、文化財保護法については基本的に毎回の調査で該当しているかどうか調べる必要がありますので要注意です。

何を調べるかというと、一般的には「遺跡」と呼ばれるような土器や貝塚、古墳などの「埋蔵文化財」が調査対象地に埋まっている可能性を確認します。

「遺跡」というと身近には感じられないかもしれませんが、地理的に恵まれた場所であれば太古の昔から人が住んでいた可能性は十分にあり、一般の方が想像する以上に埋蔵文化財は住宅街の地下にも眠っています。そして役所には過去に調査された埋蔵文化財の情報が集約されていて「このあたりには◯◯が埋まっているはず」といった分布図が用意されています。埋蔵文化財が埋まっている場所を「埋蔵文化財包蔵地」といい、役所が分布図に記載している包蔵地を「周知の埋蔵文化財包蔵地」と呼びます。この呼び方は、役所の各種資料や重説上でも使う表現ですので覚えておきましょう。

文化財保護法の調査では、この周知の埋蔵文化財包蔵地を記載した資料を探し、調査対象地が該当していないかどうかを確認します。最近では分布図をネット上に公開している市区町村が多いので、まずはネット上で「◯◯市 埋蔵文化財」「◯◯区 埋蔵文化財包蔵地」などのキーワードで検索してみましょう。ちなみに、埋蔵文化財については多くの市区町村で教育委員会が管轄しているのですが、経験上「本庁舎とは別の場所」ということもよくありました。ネット上ではなく窓口に行く場合には、どこで確認ができるのかは事前に調べておくのがおすすめです。

また、分布図の縮尺が大きく「公開されている資料だけだと調査対象地が該当するかどうか微妙」というケースもあるあるです。こうした場合、基本的には窓口に行かなければなりませんが、FAXで問い合わせるとFAXで回答してくれる市区町村もあります。FAX回答ですと役所が発行した文書が手元に残りますので、調査結果の正確性を証明するには便利な資料となります。「証拠を残す」という点で言えばFAX調査は有用ですので、あえてFAX調査を選択してもいいかもしれません。

調査対象地が包蔵地だったら

文化財保護法では埋蔵文化財の保護を目的として、所有する土地が埋蔵文化財包蔵地だった場合にしなければならない届出や調査等について定めています。

まず「周知の埋蔵文化財包蔵地」だった場合、建築工事に着手する60日前までに教育委員会への届出が必要です。そして土地が所在するエリアや工事の規模によっては「試掘」といって本当に埋蔵文化財があるかどうかを確かめる調査が発生し、試掘の結果「本格的な調査が必要だ」となればガッツリ土地を掘り起こす「本調査」に移行していきます。各種調査が完了までは建築工事には着手できず、本調査ともなればかなりの調査期間が必要になりますから当初予定していた工事は基本的に中止、計画変更などをせざるを得ないでしょう。

また注意が必要なのは期間だけではありません。実は本調査の費用を負担するのは、原則として土地所有者ということになっています。調査の規模によってはとんでもない費用がかかる可能性があります。しかし、市区町村によっては「個人の住宅を建築する場合には市区町村の負担」としてくれる場合もありますので「もし調査が発生してしまったら費用は誰がもつのか」も確認しておいたほうが良いでしょう。

なお、市区町村によっては、周知の埋蔵文化財包蔵地に該当していないとしても「近接しているなら届出が必要」という条例を定めている場合があります。なかには「努力義務」としていて、かなりふんわりとしたお願いレベルのこともありますが、調査地の市区町村によって制限が異なる可能性は考慮しておかねばなりません。手続きの流れを把握できていない市区町村の調査時は、窓口で案内資料をもらうようにしたほうが無難でしょう。

※以下より「文化財保護法」に該当した場合の重説への記載例等をご覧頂けます。

ちなみに、埋蔵文化財の本調査というのは、要は埋まっているものを掘り起こすわけですから「掘削作業」とも言えます。したがってその費用は掘削工事の見積もりに近しいものになっており、掘り起こす範囲の広さ・深さに比例します。個人の住宅用地であれば規模も深さもそれほど大規模にはなりにくいので、市区町村負担という選択肢もでてくるのでしょう。

埋蔵文化財を管轄する文化庁のサイトに過去の調査費用等をまとめた統計資料『埋蔵文化財関係統計資料』が公開されています。資料によれば例年9,000件ほどの本調査が実施されているようで、令和3年に実施された本調査全ての調査費の平均を計算してみると1件あたり約95.8万円でした。しかし、先述の通り調査費用は土地の規模に比例するので件数による平均はあまり意味がないかもしれません。規模の大きかったであろう案件を資料から拾い上げていくと、石川県で1件4,295万円、北海道では3件で3,795万円と青天井であることもよくわかります。ここから鑑みるに恐らく1㎡当たりの平均を試算するのが最も正解に近いように思いますが、確認できた資料だけでは残念ながらそこまではたどり着けませんでした。

参考サイト:文化庁『埋蔵文化財』(参照日 2023/6/15)

ただ、調べていくと中野区の資料に興味深い記載を見つけました。都内の地形・地盤、選定業者であるなど前提条件はあるものの、行政が目安の金額を公表しているのは非常に参考になりましたので引用しておきます。

5.調査期間と発掘経費額

(1) 試掘調査の場合
経 費:東京都に登録されている民間調査組織に調査を委託した場合は、1日当り25万円(消費税別)が標準的です。(建主又は建主の委託を受け当該建築工事を施工する会社が試掘調査の実施能力を有し、調査の全部又は一部を担う場合は、担う範囲によって経費は変わります。)
期 間:建築面積120㎡位までの戸建住宅の場合は、1日で完了します。マンション等大きな建物の場合は、開発面積や建物配置によって異なりますので、個別の協議となります。
調査の方法:中野区教育委員会の監督のもと、建築面積の10~25%の範囲のトレンチ調査(幅2m の溝をトレンチといいます。)を行います。


(2) 本調査の場合
経 費:1㎡当り約4万円がこれまでの実績の上限額です。
期 間:1日当り15~18㎡が調査可能面積となります。
調査の方法:調査は、試掘調査で遺構が発見された部分を中心に必要面積・期間を算出して、中野区教育委員会の監督のもと、東京都に登録されている民間調査組織が行います。調査に先立ち、開発事業者・中野区教育委員会・民間調査組織との間で必要事項を協議した上、三者協定を締結して調査に入ります。

中野区『埋蔵文化財について』(参照日 2023/6/15)

「上限額」という表現ですから、恐らく何かしら困難な条件下の数字だろうと思われます。とはいえ、100㎡の土地があったら400万円はありえると・・・やはりそれなりの金額になる可能性は考慮すべきなようです。

非該当地でも建築中に出てくることはある

これは経験談でもありますが、もしも分布図では「埋蔵文化財包蔵地ではない」という調査結果だったとしても「掘ったら出てきた」という事例はあります。この場合、発見した時点で工事を中止し届出を行わなければいけません。その結果「急遽本調査をすることになった」というルートも当然ありえるわけです。今ほどコンプライアンス意識が高くなかった昔には「見なかったことにした」という本当かウソかわからない噂も聞いたことがありますが、もう流石にそのような施工がまかり通ることは考えにくいでしょう。

ちなみに私の場合は、とあるデベロッパーさんの案件でそれなりの規模のマンション開発だったので、販売計画にも変更が必要になりかなり悩まされました。しかも出土したのは縄文時代の土器、住居跡、貝塚、人骨でした・・・。「縄文時代の人骨って告知事項かな・・・?」と呟く販売責任者の憔悴した顔は今でも鮮明に覚えています。

ここまで散々脅して参りましたが、実務では規模の小さい個人住宅の建築であれば「地中の遺跡に影響がある深さまで掘削しない」ということで試掘も不要になるようなケースもありますから、あまり怖がらず窓口の方に相談しながら粛々と進めていただければと思います。

監修者

宅地建物取引士
荒川 竜介

新卒から合計4年半不動産仲介の現場に従事。 その後、マンションリサーチ社の執行役員を経て、2018年12月にミカタ株式会社 代表に就任。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

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