都市計画法、建築基準法以外の法令 – 役所調査マニュアル[実践編]

農地法

監修者

宅地建物取引士・公取協認定不動産広告管理者
野村 道太郎

大手不動産会社、広告代理店を経て現在は『不動産会社のミカタ』 『役所調査のミカタ』の編集長を兼務。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

監修者

宅地建物取引士
公取協認定不動産広告管理者

野村 道太郎(プロフィール)

農地法は農業の保全・振興を目的とした法律で、不動産の実務に関連するところでは以下2つの考え方が重要になります。

  • 良い農地は農家が所有し農業するべし
  • 農地は安易に農地以外に変えたらダメ

実務ではこれらの意図を反映した3条~5条で定める許可制度を理解しておく必要がありますので、まずはそれぞれの概要を整理してみましょう。

第3条
 視点:①良い農地は農家が所有し農業するべし
 制限:農地の権利移転等 (※) には許可が必要

※権利移転等…所有権の移転はもちろん、地上権や賃借権等の権利設定も制限の対象です。

第4条
 意図:②農地は安易に農地以外に変えたらダメ
 制限:農地を農地以外(宅地など)に転用するには許可が必要

第5条
 意図:① + ②
 制限:農地を転用目的で権利移転等するには許可が必要

イメージを掴むことを優先して少し乱暴な言い換えをしますが、第3条では「せっかくの優良な農地、ちゃんと農業をやってくれる人以外に売ってしまったら農業が廃れる!」という危機感から許可制を定めています。想定している取引の要素だけを抜き出せば「農地のまま、農家に売る」であり、取引後も農業を継続することを前提にしています。ここで主に審議されるのは移転後も問題なく農業を継続できるのかという、買主側の農家パワーとでもいいましょうか、農地法の条文内でも農機具の所有状況や農作業に従事する人数までもが検討材料に挙げられています。

対して第4条は「農地を農地以外にしたい場合、許可制にしておかないと優良な農地が知らぬ間に減ってしまうかもしれない!」という考えですね。「農家が所有したまま、他の用途に転用する」のを認めるか否かを許可制にしており、実は第3条の後詰めのような重要な役割も担っていたりします。

というのも、仮に第4条がなければ「まずは農地を転用してしまえばいい!農地じゃなくなれば第3条に関係なく農家以外に売れるぞ!」という抜け道が残ってしまいますから、先に塞いでおかねば貪欲な不動産会社さんがその道をフルアクセルで駆け抜けてしまうでしょう。第3条の許可にあたっては主に買主の適格性(農家パワー)が問われましたが、第4条の場合は土地の農地パワーが問われます。ざっくり言えば、農業委員会としては優良農地は農地として残しておきたいので許可が出にくいといったイメージです。

最後に第5条は「農地を農地以外にして、誰かに売る」であり、よくあるケースとしては不動産会社が農地を開発・転売目的で買い取るような場合には第5条による許可が必要です。転用と権利移転が同時に行われますが、転用によって農地ではなくなりますから買主の農家パワーは不要であり、「農地以外への転用を認めるか」という農地パワーが重要になる点で第3条よりは第4条に性格の近しい制限と言えるでしょう。

なお、第4条と第5条で問題にしている「転用」については「市街化区域内であれば許可までは不要、届出だけでいい」という例外規定が存在しています。市街化区域内はそもそもに「市街化すべき」なのですから、農地を宅地に転用するのは歓迎されており、許可が出ないことはなく届け出れば受理されます。したがって、市街化区域内であれば第4条・第5条はいずれも「許可不要、届出のみで取引可」となりますが、「届出すれば即取引OK」ではなく、届出後に農業委員会が発行する「受理通知書」「受理証」といった書類が必要になる点は注意が必要です。

ちなみに、農業委員会から各種許可を取りたい場合や、届出の受理通知書を取得したい場合には、農業委員会による審議の頻度には気をつけたほうが良いでしょう。仮に「審議は月に1回」という地域であれば、当月の提出期限を過ぎていると「翌月の審議まで待たなければ許可が出ない」ということになります。うまくいったとしてもそれなりに時間のかかる手続きですので、早め早めの確認・準備が大切です。

その他、よく挙げられる注意点として「農地かどうか」つまり「農地法の規制対象となるか」は農業委員会によって判断されます。そしてこれは登記上の地目で判断されるわけではありません。もちろん地目が「田」や「畑」であれば農地の可能性が高まりますので、農業委員会への確認は必須になるでしょう。しかしながら、地目が農地でないとしても、実態が農地であれば規制対象になる可能性があります。地目だけで判断せず、怪しい場合には早めに農業委員会へ確認するようにしてください。

また、調べた結果として「地目は農地のままだが、農地法の転用手続きは完了している」という事例はよくあります。転用手続き後に地目変更の登記をしなかったのでしょう。この場合、農地法による制限は受けませんのでさらに調べることはありませんが、そのままにしておくのもあまり良くはないでしょうから地目変更の登記を所有者に提案してもいいかもしれません。

調査時に確認すべき項目

最後にここまでの内容を踏まえ、役所調査時の確認項目をまとめておきます。

  • 対象地は農地法の対象となる農地か?(登記上の地目だけでは判断できない)
  • 今回の取引において必要な手続きの段取り、必要書類等
  • 必要書類の提出に締切があればその時期
  • 農業委員会の審議の時期

※以下より農地法に該当した場合の重説への記載例をご覧頂けます。

無料アプリで調査効率アップ & ぬけもれ防止

監修者

宅地建物取引士・公取協認定不動産広告管理者
野村 道太郎

大手不動産会社、不動産専門 広告代理店を経て現在は『不動産会社のミカタ』『役所調査のミカタ』の編集長を兼務。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

※実績等:初心者向けセミナー「よくわかる役所調査」受講者アンケート結果:満足度96.3%、全国3,000社が利用した「役所調査チェックシート」企画・制作、業務効率化ツール「スマホで役所調査メモ」企画・設計・監修 など

1 2 3 4 5