都市計画法、建築基準法以外の法令 – 役所調査マニュアル[実践編]

宅地造成及び特定盛土等規制法

監修者

宅地建物取引士・公取協認定不動産広告管理者
野村 道太郎

大手不動産会社、広告代理店を経て現在は『不動産会社のミカタ』 『役所調査のミカタ』の編集長を兼務。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

監修者

宅地建物取引士
公取協認定不動産広告管理者

野村 道太郎(プロフィール)

(令和6年7月11日 追記修正)

こちらの法律は法改正により2023年5月26日から名称が変わりましたが、旧名称である「宅地造成等規制法(宅造法)」のほうが馴染みがある方がほとんどかと思います。もともとは宅地造成を起因とした土砂災害を防止するために、起伏の激しい地域を中心に新たな宅地造成を規制する「宅地造成工事規制区域」について定めた法律でした。当初の施行は1962年と歴史が古く、規制区域は全国的に指定されています。

その後、兵庫県南部地震や新潟県中越地震の被害をきっかけとして2006年に一度改正され、既存の造成宅地で崩落等の危険があるエリアに対し、知事が勧告や命令ができるようにする「造成宅地防災区域」が新設されています。防災区域は規制区域ほどには指定されておらず執筆時点では、北海道安平町、宇都宮市、山口県宇部市、熊本県西原村雀塚地区に指定されているのみという状況です。(2024年7月11日)

そして直近の改正です。通称「盛土規制法」と呼ばれており、名前の通り盛土の危険性を強く意識しています。改正のきっかけとなったのは、2021年に静岡県熱海市伊豆山で起きた大規模な土石流災害で、当時のニュース映像を思い出せる方も多いのではないでしょうか。被害地域の上流山間部に人為的に作られた盛土が原因となり実に98棟(※)もの住宅が被害に遭いました。熱海の土石流は、これまでの盛土に対する規制が不十分であったことを物語っており、第二第三の被害を防止するべく今回の法改正に至っています。

※出典元:国土交通省他『盛土規制法パンフレット』参照日2023/6/13

盛土規制法では、不適切な盛土が行われた場合に市街地に危害を及ぼしうる範囲を「特定盛土等規制区域」に指定することで、全国一律の基準で危険な盛土を規制できるようにしています。具体的な制限の内容としては、新たな盛土は許可制としたり、不正な盛土が見つかりやすくなる措置や維持管理等への基準を設けるなど、完成後の安全管理も強く意識した内容になっているのが特徴と言えるでしょう。

参考画像:国土交通省他『盛土規制法パンフレット』P2- 規制区域のイメージ

さらに、旧法では宅地造成工事規制区域だったものが、改正法では「宅地造成工事規制区域」という名称に変更され、指定範囲が大幅に拡大されていることには注意が必要です。名称はさらりと「」の一文字が増えただけですが、指定範囲は段違いに広くなっています。これは実際の区域図を見ていただいたほうがわかりやすいでしょう。東京都の新旧の区域図で比較したいと思います。1枚目が宅造法による宅地造成工事規制区域の規制区域、2枚目が盛土法による規制区域です。

東京都都市整備局『宅地造成工事規制区域』より抜粋
東京都都市整備局『盛土規制法に基づく規制』より抜粋

1枚目では都内の一部にのみ区域指定があったものが、2枚目ではほぼ全域が着色されており、規制区域が大幅に拡大されていることは一目瞭然かと思います。宅造法では宅地造成をきっかけとした土砂災害を懸念して、傾斜地・崖線等を中心に区域指定がなされたのに対し、盛土法では「市街地や集落、その周辺など、盛土等が行われれば人家等に危害を及ぼしうるエリア」を宅地造成等工事規制区域としたため、都内ではほぼ全域が規制区域になりました。

今回は東京都の指定状況を例示しましたが、全国的に規制区域は大幅に拡大することが予想されますので、新たに盛土法の運用が開始される地域におかれましては区域変更に十分注意が必要です。なお、東京都では令和6年7月31日より盛土法の運用が開始されますが、地域によって宅造法から盛土法への移行時期には差がありますので、区域指定の状況、移行時期、経過措置等については担当される地域によって随時ご確認をお願いいたします。

調査方法と確認すべき項目

調査自体はかなりシンプルで、ここまでに挙がった各区域について指定されているかどうかを確認してください。とはいえ「造成宅地防災区域」は全国的にもごく一部にしか存在しませんので、主には旧法の「宅地造成工事規制区域」と、新法の「宅地造成等工事規制区域・特定盛土等規制区域」について指定されているかどうかを気にすることになると思います。

  • 宅地造成工事規制区域(旧法)
  • 造成宅地防災区域
  • 宅地造成工事規制区域(新法)
  • 特定盛土等規制区域

確認方法としては指定区域がある場合には都市計画図上に反映されていることが多いので「都市計画図の閲覧時に気付く」というのが主な調査方法になります。しかし、旧法から新法への移行期間である現在は、まずは「対象地域における制度の移行状況」を確認したほうがよいでしょう。

まだ旧法のままであれば、そもそもが崖崩れや土砂災害に関連した規制ですから「現地が起伏の激しい地域だったら指定の有無を疑う」という考え方になりますが、新法の運用が始まっているのであれば「市街地であれば規制区域になりそうだ」ということになるでしょう。法改正の真っ只中の調査は少し大変ではありますが、防災に関連する話題は注目度の高いところですので慎重に状況確認に努めていただければ幸いです。

※以下より宅地造成及び特定盛土等規制法に該当した場合の重説への記載例をご覧頂けます。

土砂災害に関連するその他の法令

ちなみに土砂災害に関連する法律というとまだまだあり、それぞれの役割を細かく理解している人は実は少ないかもしれません。ここではそれぞれに細かくは触れませんが、大枠だけ解説しておきます。まず、規制する対象によって下記のように大きく2つのグループに分かれています。

  • 被害を受ける地域に対する規制
    • 土砂災害防止法(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)
  • 災害の発生源となる傾斜地等に対する規制
    • 砂防法
    • 地すべり等防止法
    • 急傾斜地法(急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律)

前者の「被害を受ける地域に対する規制」は土砂災害が発生した場合に、その土砂等が流れ込んで被害を受けるエリアに対して規制を設けています。土砂災害防止法では、特に危ない場所にある建築物に対して移転の勧告まで可能であったり、災害対策を備えた構造を指定するなど「災害が起きてしまった場合にも被害が少なく済むように」という考え方が根底にあります。

一方で後者の発生源に対する規制は、災害の原因となる傾斜地や崖などに対する災害リスクが上がるような行為を制限したり、逆に災害リスクが下がるような対策を義務付けるなど、「そもそも災害が発生しないように」という考え方が基本となります。ちなみに記載の3つをまとめて「砂防三法」「土砂三法」などと呼ぶことも多いので覚えておくと良いでしょう。

少し話がそれますが一言で土砂災害といっても、実は大きくわけて3種類の災害が存在しています。詳しくは東京都建設局のHPがわかりやすいのでご参照いただければと思いますが、土砂と水が混ざりあったドロドロとした状態のものが谷や河川を一気に流れ出てくる「土石流」、比較的ゆるい傾斜地である程度広い範囲の地面がそのままズルリと滑り落ちていく「地すべり」、切り立った崖が崩壊して一気に崩れ落ちてくる「がけ崩れ」の3種です。

そして砂防三法はこの土砂災害3種の原因に対応しています。砂防法は主に土石流対策、地すべり等対策法はそのままですね、急傾斜地法はがけ崩れに対して対策を講じる目的を持っています。こうして整理すると、非常に似た法律も「なぜ存在しているのか?」「その役割は?」といった全体像が掴めて理解しやすいかと思います。

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監修者

宅地建物取引士・公取協認定不動産広告管理者
野村 道太郎

大手不動産会社、不動産専門 広告代理店を経て現在は『不動産会社のミカタ』『役所調査のミカタ』の編集長を兼務。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

※実績等:初心者向けセミナー「よくわかる役所調査」受講者アンケート結果:満足度96.3%、全国3,000社が利用した「役所調査チェックシート」企画・制作、業務効率化ツール「スマホで役所調査メモ」企画・設計・監修 など

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