都市計画法、建築基準法以外の法令 – 役所調査マニュアル[実践編]

文化財保護法

監修者

宅地建物取引士・公取協認定不動産広告管理者
野村 道太郎

大手不動産会社、広告代理店を経て現在は『不動産会社のミカタ』 『役所調査のミカタ』の編集長を兼務。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

監修者

宅地建物取引士
公取協認定不動産広告管理者

野村 道太郎(プロフィール)

「都市計画法、建築基準法以外の法令」としてご紹介している中で、個人的に最も調査機会が多いのはこの文化財保護法でした。「土地区画整理法」以降に紹介した法令については「該当していたら調べる」といったように、調査の起点が受け身なものが続いていましたが、文化財保護法については基本的に毎回の調査で該当しているかどうか調べる必要がありますので要注意です。

何を調べるかというと、一般的には「遺跡」と呼ばれるような土器や貝塚、古墳などの「埋蔵文化財」が調査対象地に埋まっている可能性を確認します。

「遺跡」というと身近には感じられないかもしれませんが、地理的に恵まれた場所であれば太古の昔から人が住んでいた可能性は十分にあり、一般の方が想像する以上に埋蔵文化財は住宅街の地下にも眠っています。そして役所には過去に調査された埋蔵文化財の情報が集約されていて「このあたりには◯◯が埋まっているはず」といった分布図が用意されています。埋蔵文化財が埋まっている場所を「埋蔵文化財包蔵地」といい、役所が分布図に記載している包蔵地を「周知の埋蔵文化財包蔵地」と呼びます。この呼び方は、役所の各種資料や重説上でも使う表現ですので覚えておきましょう。

文化財保護法の調査では、この周知の埋蔵文化財包蔵地を記載した資料を探し、調査対象地が該当していないかどうかを確認します。最近では分布図をネット上に公開している市区町村が多いので、まずはネット上で「◯◯市 埋蔵文化財」「◯◯区 埋蔵文化財包蔵地」などのキーワードで検索してみましょう。ちなみに、埋蔵文化財については多くの市区町村で教育委員会が管轄しているのですが、経験上「本庁舎とは別の場所」ということもよくありました。ネット上ではなく窓口に行く場合には、どこで確認ができるのかは事前に調べておくのがおすすめです。

また、分布図の縮尺が大きく「公開されている資料だけだと調査対象地が該当するかどうか微妙」というケースもあるあるです。こうした場合、基本的には窓口に行かなければなりませんが、FAXで問い合わせるとFAXで回答してくれる市区町村もあります。FAX回答ですと役所が発行した文書が手元に残りますので、調査結果の正確性を証明するには便利な資料となります。「証拠を残す」という点で言えばFAX調査は有用ですので、あえてFAX調査を選択してもいいかもしれません。

調査対象地が包蔵地だったら

文化財保護法では埋蔵文化財の保護を目的として、所有する土地が埋蔵文化財包蔵地だった場合にしなければならない届出や調査等について定めています。

まず「周知の埋蔵文化財包蔵地」だった場合、建築工事に着手する60日前までに教育委員会への届出が必要です。そして土地が所在するエリアや工事の規模によっては「試掘」といって本当に埋蔵文化財があるかどうかを確かめる調査が発生し、試掘の結果「本格的な調査が必要だ」となればガッツリ土地を掘り起こす「本調査」に移行していきます。各種調査が完了までは建築工事には着手できず、本調査ともなればかなりの調査期間が必要になりますから当初予定していた工事は基本的に中止、計画変更などをせざるを得ないでしょう。

また注意が必要なのは期間だけではありません。実は本調査の費用を負担するのは、原則として土地所有者ということになっています。調査の規模によってはとんでもない費用がかかる可能性があります。しかし、市区町村によっては「個人の住宅を建築する場合には市区町村の負担」としてくれる場合もありますので「もし調査が発生してしまったら費用は誰がもつのか」も確認しておいたほうが良いでしょう。

なお、市区町村によっては、周知の埋蔵文化財包蔵地に該当していないとしても「近接しているなら届出が必要」という条例を定めている場合があります。なかには「努力義務」としていて、かなりふんわりとしたお願いレベルのこともありますが、調査地の市区町村によって制限が異なる可能性は考慮しておかねばなりません。手続きの流れを把握できていない市区町村の調査時は、窓口で案内資料をもらうようにしたほうが無難でしょう。

※以下より「文化財保護法」に該当した場合の重説への記載例等をご覧頂けます。

ちなみに、埋蔵文化財の本調査というのは、要は埋まっているものを掘り起こすわけですから「掘削作業」とも言えます。したがってその費用は掘削工事の見積もりに近しいものになっており、掘り起こす範囲の広さ・深さに比例します。個人の住宅用地であれば規模も深さもそれほど大規模にはなりにくいので、市区町村負担という選択肢もでてくるのでしょう。

埋蔵文化財を管轄する文化庁のサイトに過去の調査費用等をまとめた統計資料『埋蔵文化財関係統計資料』が公開されています。資料によれば例年9,000件ほどの本調査が実施されているようで、令和3年に実施された本調査全ての調査費の平均を計算してみると1件あたり約95.8万円でした。しかし、先述の通り調査費用は土地の規模に比例するので件数による平均はあまり意味がないかもしれません。規模の大きかったであろう案件を資料から拾い上げていくと、石川県で1件4,295万円、北海道では3件で3,795万円と青天井であることもよくわかります。ここから鑑みるに恐らく1㎡当たりの平均を試算するのが最も正解に近いように思いますが、確認できた資料だけでは残念ながらそこまではたどり着けませんでした。

参考サイト:文化庁『埋蔵文化財』(参照日 2023/6/15)

ただ、調べていくと中野区の資料に興味深い記載を見つけました。都内の地形・地盤、選定業者であるなど前提条件はあるものの、行政が目安の金額を公表しているのは非常に参考になりましたので引用しておきます。

5.調査期間と発掘経費額

(1) 試掘調査の場合
経 費:東京都に登録されている民間調査組織に調査を委託した場合は、1日当り25万円(消費税別)が標準的です。(建主又は建主の委託を受け当該建築工事を施工する会社が試掘調査の実施能力を有し、調査の全部又は一部を担う場合は、担う範囲によって経費は変わります。)
期 間:建築面積120㎡位までの戸建住宅の場合は、1日で完了します。マンション等大きな建物の場合は、開発面積や建物配置によって異なりますので、個別の協議となります。
調査の方法:中野区教育委員会の監督のもと、建築面積の10~25%の範囲のトレンチ調査(幅2m の溝をトレンチといいます。)を行います。


(2) 本調査の場合
経 費:1㎡当り約4万円がこれまでの実績の上限額です。
期 間:1日当り15~18㎡が調査可能面積となります。
調査の方法:調査は、試掘調査で遺構が発見された部分を中心に必要面積・期間を算出して、中野区教育委員会の監督のもと、東京都に登録されている民間調査組織が行います。調査に先立ち、開発事業者・中野区教育委員会・民間調査組織との間で必要事項を協議した上、三者協定を締結して調査に入ります。

中野区『埋蔵文化財について』(参照日 2023/6/15)

「上限額」という表現ですから、恐らく何かしら困難な条件下の数字だろうと思われます。とはいえ、100㎡の土地があったら400万円はありえると・・・やはりそれなりの金額になる可能性は考慮すべきなようです。

非該当地でも建築中に出てくることはある

これは経験談でもありますが、もしも分布図では「埋蔵文化財包蔵地ではない」という調査結果だったとしても「掘ったら出てきた」という事例はあります。この場合、発見した時点で工事を中止し届出を行わなければいけません。その結果「急遽本調査をすることになった」というルートも当然ありえるわけです。今ほどコンプライアンス意識が高くなかった昔には「見なかったことにした」という本当かウソかわからない噂も聞いたことがありますが、もう流石にそのような施工がまかり通ることは考えにくいでしょう。

ちなみに私の場合は、とあるデベロッパーさんの案件でそれなりの規模のマンション開発だったので、販売計画にも変更が必要になりかなり悩まされました。しかも出土したのは縄文時代の土器、住居跡、貝塚、人骨でした・・・。「縄文時代の人骨って告知事項かな・・・?」と呟く販売責任者の憔悴した顔は今でも鮮明に覚えています。

ここまで散々脅して参りましたが、実務では規模の小さい個人住宅の建築であれば「地中の遺跡に影響がある深さまで掘削しない」ということで試掘も不要になるようなケースもありますから、あまり怖がらず窓口の方に相談しながら粛々と進めていただければと思います。

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監修者

宅地建物取引士・公取協認定不動産広告管理者
野村 道太郎

大手不動産会社、不動産専門 広告代理店を経て現在は『不動産会社のミカタ』『役所調査のミカタ』の編集長を兼務。実務者目線で「使える情報」の発信に重きをおいています。

※実績等:初心者向けセミナー「よくわかる役所調査」受講者アンケート結果:満足度96.3%、全国3,000社が利用した「役所調査チェックシート」企画・制作、業務効率化ツール「スマホで役所調査メモ」企画・設計・監修 など

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